根暗な貴方は私の光

悲哀

 人生で初めて訪れた写真館は随分と寂れていた。写真館というともっと明るいものを想像していたが、そんな想像は簡単に打ち砕かれる。
 遡ること数時間前。
 皆と丘の上で別れて数日が経ち、紬は焼けた女学校に身を置いていた。元々この女学校の生徒だったこともあり、生き残った教師の中には顔見知りがいる。
 彼女達の手伝いをしながら紬は退屈な時間を凌いでいた。
 そんな時、教室でぼんやりと窓の外を眺めていた紬の元に、丘で別れたっきり会っていなかった江波方やって来た。
 随分と焦った様子の彼はたった一言、

「一緒に来てください」

 とだけ言うと、戸惑う紬などよそに教室を飛び出していく。
 もちろん、紬の手を握ってだ。優しく握る掌から彼の温もりが直に伝わってきてなんともむず痒い。
 背後で女学校の教員が教室を走る二人に何か注意のような言葉を叫んでいたが、二人はそんな声など聞こえなかったことにして走り続けた。
 学校を飛び出して江波方に連れられて辿り着いたのは、寂れた写真館であった。呆然とその写真館を見上げる紬は、自身の記憶を辿りながら独り戸惑う。
 そうして今に至るのである。

「え、江波方さん。いきなりどうしたんです? この写真館は……」
「ここは」

 繋いでいた手を離した江波方はゆっくりと写真館の方へ歩みを進める。何故、彼がこの場所を知っているのかなど紬には分かるはずもない。
 ただ彼のことだから怪しく危険な場所ではないということくらいしか紬には予測できなかった。

「風柳くんの実家ですよ。風柳写真館」
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