根暗な貴方は私の光
「好きだった。ずっと、ずっと好きだった……」
十年も経てば忘れられると思っていた。若かりし頃の短く儚い恋だったのだから。
けれど、今でも忘れられていない。それどころか教え子の前で泣き喚くくらい引き摺っているのだ。
自分でも情けなくて驚いてすらいる。恥ずかしいはずなのに羽目が外れてしまったのか口からは長年溜め込んだ本音が溢れた。
「行かないでって、言えば良かった……」
この場にいる者の中で直接戦争を経験したのは紬くらいだろう。まだ十代である彼女達は空襲の影響を受けていたとしてもまともに覚えていない。
だからこそ、戦争の悲惨さを紬は彼女達に知ってほしかった。
紬だけではなく、戦争で駆り出された彼らを愛した人がいて、そして何もできない非力さに泣く日々を送っていたことを。
戦争で愛する人を失う辛さを。
「……なんで、なんで振り返ってくれなかったのよ。なんで、応えてくれなかったのよ!」
写真館で別れを告げられたあの日、彼は紬の呼びかけに応えなかった。
ようやく知れた彼の名前を口にしたのに、彼自身も名前で呼ばれることを望んでいたのに、彼は自身の名前を呼ばれても目を逸らしていた。
悲しげで不本意だと言いたげな彼の横顔が脳裏に蘇る。途端に怒りに似た感情が押し寄せてきた。
最期の時くらい抱き締めてほしかった。
最期の時くらい名前を呼んでほしかった。
せめて呼びかけにだけでも応えてくれたのなら、きっぱりと別れられたかもしれないのに。
全部、全部あの人のせいだ。十年たった今でも忘れられないのは、事あるごとに彼のことを思い出してしまうのは、道端に生えている花を見る度に彼との会話を思い出してしまうのは、全部あの人が中途半端な別れ方をしたせいなのだ。
無理矢理にでも理由をつけてそう思わないと壊れてしまいそうだった。
あの人が今何処にいるのかは分からない。それでも今世で一緒になれなかったから来世は期待していいだろうか。
こうして背中を撫でて慰めてくれる優しい生徒達が戦争なんてもので愛する人と離れ離れにならない世界。
好きな人と一緒にいたいと願える自由な世界。
次に生まれ変わるのならそんな世界で貴方ともう一度出会いたい。