恋するだけでは、終われない / 悲しむだけでは、終わらせない
第七話
「……来年度の、放送部の体制ですか?」
「そうだよ、月子。もう、決まってる?」
「いいえ」
「だよねぇ〜」
……そんなことはなにも、考えていなかった。
さすが、美也ちゃんだ。
そこまで心配して、くれているなんて。
「う〜ん、ちょっと違うかな?」
「えっ、どこがですか?」
「わたし、引退した先のことなんて口出ししないつもりだったしね」
「……でも。いまのは『過去形』ですよね?」
「うん。だからこうして、改めて聞いている」
……ねぇ、海原くん。
来年度のことなんて、考えていた?
わたしはなにも、考えていなかった。
部長が、そのままなのは当たり前だとしてもね……。
「……えっ! 来年も僕なんですか?」
「ねぇ。ほかにやる人が、いるとでも?」
「か、考えても、いませんでした……」
「では改めて聞くわ。海原くん、どうするの?」
「あ、あみだくじ、とかでは……?」
……もう。
いつまでも腕相撲とか、ババ抜きとか、早食い競争とかいっていないでよ。
海原くん以外に。
わたしたちの、部長なんていないでしょ?
……ただ問題は、『副部長』なのよ。
「それこそ……。三藤先輩じゃ、ないんですか?」
「特に深くは、考えていなかったわ」
「いま、というか都木先輩に聞かれたときに。考えたんですよね?」
「だから問題だと、わかったのよ」
……わたしのままでいいと思う。
確かに美也ちゃんは、そういった。
でもわたしは、きちんと。
わたしでいいのか、みんなに聞かなければいけないと思った。
「……ねぇ月子、『添い遂げられる』?」
「えっ……?」
「あっ、ゴメン! えっと、そういう意味じゃない」
「ほ、ほかにありましたっけ……?」
……ダメだ。
このやりとりだけは。
海原くんには、とてもいえない。
「話していてね、なんだか。とっても重たい役を、回されそうな気がするの」
「い、いままでよりも……ですか?」
「そうね。具体的にはよく、わからないけれど……」
美也ちゃんの言葉が。
まるで奥歯に、ものが詰まったみたいで。
「……要するに、どういうことですか?」
「まぁ、月子ならそう聞くよねぇ? だからわたしも困ったんだけど……」
「……副部長としての、『覚悟があるか』ですか?」
「う、うん」
「三藤先輩。精一杯やっているのに、どうしてなんでしょうかねぇ?」
「えっ?」
「いえ。だから先輩は、頑張ってるのになんでかなって……」
「ねぇ? いまもしかして、ほめてくれてる?」
「は、はい……」
……海原くんに、ほめられて。
うれしかった。
とっても、うれしかった。
でも同時に、これでは足りないんだと。
ようやく、気がついた。
「もっと人前でも話しをしろとか、愛想よくしろとか。そんなことかしら?」
「そうじゃなくて、もっとう〜ん。やさしくしろ、とかですか?」
「……海原くん、ふざけないで」
「す、すいません……」
ふと、先日の長岡先輩や校長とのやりとりを思い出した。
「臨時委員会は、どうなった?」
「中間試験が終わってからにするわね……」
……三年生と、先生がたは。
いったい、なにを考えているのだろう?
「いままで以上に。放送部というか、委員会の仕事が」
「増えるということ、かしら?」
「ただ。部長と副部長に『覚悟』が必要だということは……」
「余程、労力のいるなにかを頼まれるということなのよね?」
試験も終わったので、近々話しがあるのだろう。
だから、美也ちゃんは。
その事前の、心構えをしておくようにと。
そういうこと、だったのだろうか?
「……あの、三藤先輩?」
海原くんとしては、ごく自然な質問なのだろうけれど。
わたしは、正直。
その質問に答えるのに、躊躇してしまった。
「先輩とふたりだけでは、大変でも」
そう、ふたり『だけ』ではなくても。
「みんながいればできることなら、どうしますか?」
放送部の、『みんな』と取り組めるのなら……。
……わたしは。
海原くんと、ふたりでできることだけでも。
それはそれで、構わない。
だがそれは。
果たして『部活動』と、呼ぶに足るものだろうか?
ふたりいれば、できること。
ふたりだけで、できること。
ふたりで、いい。
ふたりが、いい。
えっ?
も、もしかして。
こういう気持ちって……。
ただ、幸か不幸か。
このときの、わたしの微妙な心の動きは。
海原くんには、伝わらなかった。
いや、海原くんが。
珍しく、『気を利かせてくれた』のだろう。
「みんなが納得したなら、なんでもできる気がします」
きっと海原くんは、『みんなのこと』だから。
わたしが、『みんなに聞かないとわからない』。
そう答えなくても済むようにと。
……配慮してくれた、のだろう。
このとき、もしわたしが。
「みんなのことなど、考えないで!」
そうはっきりと、口に出せていたら……。
たが、わたしは。
自分の気持ちを自覚するためには。
まだ、なにかが。
……足りて、いなかった。
あるいは、もしかして。
美也ちゃんのいう『覚悟』というのは。
自分『だけ』の気持ちには、蓋をしろ。
そんなことを、指しているのだろうか?
……でも。
だとしたらそれは、誰のため?
それが揺らぐ弱さは、許されないの?
「……ごめんなさい。なんだか、わからなくなってしまったわ」
わたしはそういうと、力無く海原くんを見る。
すると、これまた。
珍しいことに。
「たぶんそのときがきたらわかりますから。いまは、空でも見ませんか?」
海原くんは、そういってから。
わたしにやさしく、ほほえんだ。
……海原くんの、このやさしさを。
わたしが、独り占めする。
このとき、強く。
誰よりも強く、そう思えれば。
わたしたちの『未来』はきっと、変わっていた。
でも、どうしてもわたしには。
……都木美也。
その人を超えるだけの、なにかが。
まだ足りていないと、わかっていた。
「……ねぇ、海原くん」
「どうしましたか、三藤先輩?」
それでも、いまのこの時間は。
わたしだけの、ものだから……。
「少しだけ、お願いがあるのだけれど」
わたしは海原くんと、同じ空を見上げると。
「しばらく、このままにさせて……」
そう断ってから、そっと。
……彼の右肩に、自分の頭を乗せた。