アバター★ミー 〜#スマホアプリで最高の私を手に入れる!〜

Scroll-16:輝く海岸線

 加藤くんの親戚が迎えに来てくれる駅まで、私たちは電車に揺られている。4人がけのボックスシートに、女子3人、男子3人と別れて座っている。この時間帯なら、目的地に着くまで席を詰めなくても大丈夫そうだ。

「なあなあ! トランプしようぜ!」

「加藤……お前、朝から元気だなあ。もうちょっと、声のトーン落としてくれよ」

 翔くんが耳を抑えながら、大げさに言った。

「貧弱だなあ、帰宅部は。俺たちなんて、いつもなら朝練が始まる時間だぜ? とりあえず場所とらないし、ババ抜きでもやるか!」

 結局私たちは、降りる駅までずっとトランプをしていた。

 ちなみに、2回に1回は加藤くんが最下位だった。彼がババを持つと、面白いくらい表情に出ていたからだ。それに気付いた翔くんは、息が止まりそうになるくらい、笑い転げていた。


「おはよう、おじさん!!」

 駅前に駐車していた車に向かって、加藤くんが手を振った。あの車が加藤くんのおじさんの車のようだ。

「おお、おはよう! みんな朝早くから、ご苦労さん。宿では、ウチの子どもたちが朝ご飯用意して待ってるよ。早速行こうか!」

 朝ご飯というワードを聞いて、玲央くんと莉奈ちゃんは、飛び上がって喜んだ。


 とても大きな車——

 長さも横幅も、天井までもが広大だ。その車の2列目に男子3人が座り、3列目に私たち女子3人が掛けていた。

「おじさん! 窓開けていい!?」

「この時間はもう暑いぞ。それで良けりゃ、好きにしなさい」

 加藤くんが2列めの窓を全開にすると、潮風が車内に入り込んできた。ビュンビュンと通り過ぎる木々の隙間から、キレイな青色の海が見え隠れしている。

「眼の前の坂を登りきったら、左手に海岸が見える。今日は天気もいいし、きっとキレイに見えるぞ」

 その坂を登りきると、おじさんが言った通り、青色に輝くキレイな海岸線が見えた。

「ス、スゲー!! 早起きするだけで、こんな景色が見れるのかよ!! 加藤、最高じゃねーか!!」

 はしゃぐ玲央くんに、おじさんと加藤くんが声を上げて笑う。

 一番左端に座っていた私にもたれかかるように、楓と莉奈ちゃんも海を見ている。2人とも、とても素敵な表情——

 ここに琴音もいたらな……

 そんな思いが、私の頭をよぎっていった。


***


「こっ、こんにちは……」

 ペンションに着くと、加藤くんの親戚が挨拶に出てきてくれた。中学1年生の(みなと)くんと、小学6年生の(なぎ)ちゃんだ。

「ハハハ、なんだよ湊! いつもは態度デカいのに、今日は大人しいな!」

「うっ、うるさいな……いきなり元気いっぱいでも、鬱陶しいだろ……」

「いやホント、湊くんの言う通りだよ。こいつ朝から、超声デカくてさ。——そうそう、俺の名前は玲央。今日明日と、よろしくね」

 そんな感じで、お互いの簡単な自己紹介が始まった。翔くん、莉奈ちゃん、楓ときて、最後が私だった。

「えーと……相川志帆です。多分、この中で一番大人しいです。短いけど2日間、よろしくおねがいします」

 こうして、私たちの2日間が始まった。


***


 朝食をごちそうになった私たちは、早速プライベートビーチでくつろいだ。海に泳ぎに出ているのは、加藤くんと楓だけ。他のみんなは、ビーチベッドで横になっている。

「莉奈ちゃんは泳がないの?」

「私、泳ぎは得意じゃないし、日焼け止めが取れちゃうのもヤダから。海に入るとしたら、シャワーを浴びる前かな」

 ちゅっ、中2とは思えないセリフ!!

 だけど莉奈ちゃんが言うと、無理してなさそうなのが凄い。

「じゃ、俺と行こうか、志帆! 俺、泳ぎだけはまあまあ得意なんだよ」

 玲央くんがそう言って、砂浜へとダッシュで駆けていく。バシャバシャと膝辺りまで海に入ると、そのまま頭から優雅に飛び込んでいった。

 玲央くんと仲良くなって、色々な玲央くんを知っていく。実はお茶目なところがあったり、少しドジなところがあったり。

 だけど、私が想像していた玲央くんって、こんなカッコいいイメージだったよね——

 なんて思った直後、足がつったのか、慌てて戻って来る玲央くんがいた。


 結局、私は1人で海へ出た。

 実は私、泳ぎは苦手じゃない。そのうえ今日は、【運動神経】を40にまで上げている。クロールでスイスイと泳ぎ始めると、あっという間に沖の方まで出てしまった。

「凄いじゃん、相川。スイミングスクールとか通ってたのか?」

 プカプカと沖で浮いていると、加藤くんがやってきた。加藤くんは野球だけじゃなく、スポーツは何でも得意なようだ。

「うん。小学生の頃、短期の水泳教室に行ったことがあって。それが役に立ってるみたい」

 2人とも体の力を抜いて、仰向けで太陽を見ている。こうしていると、浮き輪なんてなくても自然に身体が浮いてくれる。


「あのさ……驚いて溺れたりしないでくれよ。——じ……実は俺さ、今回お前たちを誘ったの、相川に来てほしかったからってのもあるんだ」

 慌てて加藤くんの方を見てしまい、身体がゴボゴボと沈んでしまった。すぐに潜り直して体制を整えると、再び海面へと身体を浮かび上がらせた。

「わ、悪い……大丈夫か?」

「う、うん……」

「ふ……2人きりになれるチャンスなんて、そうそう無いと思ったから、今しか無いかなって。驚かせてごめん……」

「ううん、大丈夫。——もしかしてだけど……体育祭の時に彼氏いるか? って聞いたのも、加藤くんが聞きたかったからなの?」

「ああ……あれは半分本当で、半分は嘘なんだ。野球部の奴に彼氏がいるのか聞いてくれって言われたのは本当だけど、本当は俺も知りたかったっていうか……」

「そうだったんだ……」

 波の音と、海鳥がなく声を聞きながら、静かな時間が過ぎていく。

 野球部の誰かさんと加藤くんは、私のどこを気に入ってくれたのだろう……きっとアバター★ミーが無ければ、こんな事を言われることは無かったはずだ。

「だからさ、嬉しかったんだよ。2年になった時、相川と同じクラスになれて」

 え……?

 それって、私がアバター★ミーを手に入れる前ってこと……?
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