もう恋なんてしないはずだったのに〜御曹司課長の一途な愛に包まれて〜
課長は社内でも評価が高い、穏やかで冷静な上司。でも日菜にとっては少し、遠い存在だった。
部下にはプレッシャーをかけることもないし、なぜか安心感を与えられる人だが、それ以上にその容姿に私は近寄りがたく、必要以上には接点を持たないようにしていた。だが、会議が終わり席に戻る途中、課長の視線が一瞬自分に向けられた気がした。けれど、すぐに逸らされる。気のせいかな。 不思議に思いつつもあっという間にそんな出来事は頭の片隅に追いやられてしまった。
定時になると、私は迷わずパソコンを閉じる。

「お先に失礼します」

同僚たちが「花菱さん、今日も早いね」と笑うのを背に、そそくさと会社を出た。
私にとっての日常はここにない。向かう先は、推しの待つ世界。 夜風に頬を撫でられながら駅へと急ぐ。
そんな様子をオフィスの窓際から橘が何気なく目で追っていることに、私はまだ気づいていなかった。
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