恋の囚人番号251107都合いい女
「それ」は一目惚れ
夜な夜な集まる爆音の箱の中
死ぬほど好きな人に出会って、
忘れられない恋をした。
制服脱いで、背伸びする週末。
不夜城のごとく闇夜に佇むクラブは
格好の遊び場だった。
この日も
夜を泳ぐように音に揺られて、
明け方の境界線に漂って
いつもの夜を重ねるはず だった。
私は、帰り支度の波を横目に、
眠気と気怠さを持て余してた。
わざと大きくのけぞり、
バーカウンターに体を預けるマリは
「ねっむ〜。コンビニ寄って帰ろっか。」
騒ぎ疲れて電池切れみたい。
読モもたまにしているマリは,
可愛い&サバサバで
まさに、ギャル界の女神。
隣にいる私は、
まぁ⋯マリのバーター感否めないけど
努力と勢いで補う気合派ってとこかな 笑
正直、マリのこと羨ましく思う時もあって
凹んだりもするけど
頼もしい相棒であることに変わりはないから
私たちは、うまくやってる。
「あ、この曲すき」
ボォっと明かりがつき始めたフロア
流れるメロウなR&Bはアリシアキーズ。
お気に入りだった。
自然とメロディに乗せて
身体が音に溶けて揺れていく。
何気なく
ほんとに何気なく
フロアを見渡した。
酔って座り込む子 半分寝てる子
ワンナイトの相手を見つけて寄り添う子
まだ高揚してる子 談笑してる子
それぞれが夜を纏って楽しんで
それぞれが終宴を迎えていた。
そんなとき、突然
後ろから、ぶん殴られたように
「それ」は訪れた。
予告もなく
私の心臓を鷲掴みにして
身体は瞬きをするのが精一杯で
喉がひりついて
酸欠でパクパクした。
「どしたん?」
マリがきょとんとして
私を見ている。
そんな気配を
視界の隅っこで確認できたけど
そんなのにかまってられなかった。
だって
「それ」の正体は
一目ぼれ。
まじで。漫画や映画と一緒。
秒でズキュンって音がした。
薄明かりのダンスフロアの壁に寄りかかって、
腕組みしながら、
悪ふざけしてる鼻ピと銀髪のやり取りを
笑って見てる「それ」の姿に
私は音速でフォーカスしたまま動けずにいた。
目にかかる黒髪から覗いた伏し目がちの瞳
切れ長で少しつり目。
口の端っこで笑う薄い唇
長い手足が織りなす仕草一つ一つに
くぎ付けになった。
おもむろに、
黒い細身のパンツの後ろポケットから
煙草を取り出した。
隣のロン毛が、
自分の煙草に火をつけるついでに、
ライターを傾けた。
「それ」は空調の風をよけるように、
長い指で揺れる炎に手を添えた。
ライターの炎が「それ」の口元を照らす。
あ・・・。
スローモーションで捉えた
煙草を咥える口元が
綺麗で見惚れた。
息が詰まりそう。
でも1mmも視線外せない。
やっとやっとの瞬きをようやくした。
「せり?だいじょうぶ?」
マリがきょとんから
怪訝になってる。
そんな気配は、
相変わらず視界の隅っこだったけど。
「それ」は煙草を指に挟んだまま
髪をかき上げ、空に煙を吐いた。
空調は相変わらず効いていて、
向かい風となり
「それ」が吐き出した煙を押し戻す。
急に目を細めて眉間にしわが寄る。
あ、逆風で煙被ってる⋯。
無音映画を見ているようだった。
ぼそっとなにか呟いて、隣のロン毛が笑った。
つられて「それ」も笑った・・・・笑った。
クシャッと笑う目元
綺麗な歯並びがのぞく口元
笑って揺れる肩
一挙手一投足に目も心臓も持ってかれた。
まさにズキュン2発目。
胸のど真ん中で轟いた。
とにかく
なんかが
弾けた!!!!!
だって私は
マリを置き去りにして
「それ」めがけて、
一直線に向かって走り出してしまったのだから。
踊り疲れて、
ピンヒールで足が痛い。
でも、黒髪のロングヘアをなびかせて
今日イチの足さばきで進む。
夜の終わりは魔法が解けて、
がっつり囲んだ強めのアイラインだって
絶対ヨレてる。
完全にイケてない状態だったけど
そんなの気にしてる場合じゃなかった。
ってかそこまでに余裕も思考も至らなかった。
だって「それ」に
ズキュンと2連発で撃ち抜かれた私の頭の中
酸欠だったもん。
どうにもならなくて、
でも
どうにかしたくて
私の足は「それ」に向かって走った!
けど
2m手前で足がすくんだ。
うっ。怯むな私。頑張れ。
「ぁ、あのっ!!!!!!」
思ったより大きな声が出る。
「それ」含む鼻ピ・銀髪・ロン毛
⋯あと坊主と金髪と
夜なのにサングラスもいた。
派手な面々が一斉にこっちを見た。
視線つよっ。
やば・・・
今更我に返って完全ノープランに絶望。
膝が震える。
こんなとこに毛穴があった!?
ってとこから、汗が出る。
「なに?」
ロン毛が答えて一歩動く寸前。
いや、待って
アンタじゃないのっつ。
なんとか交わして
「ぉお友達になってください!!!!!!」
「それ」にまっすぐ足早に歩み寄って、
直角に腰を折り手を差し出した。
自分でもびっくり。
え⋯私、ダサ。
まさかの
”握手でお友達希望”
しちゃった⋯
一瞬の静寂のあと、
爆笑と拍手。
秒で恥ずかしさと後悔。
私何やってんだ。
背中にマリの視線も刺さってる。
「なんか言ってやれよ。」
ロン毛の笑いを堪える声が、
私を途方に暮れさせた。
空気が動いたその時、
差し出しっぱなしの私の右手に
温もりが宿った。
ハッとして我に返って見上げると、
指先をちょこんとつまんで「それ」が近くにいた。
「派手な逆ナンだなぁ。」
想像してたよりずっとずっと柔らかくて
低くて心地よい声と笑い方だった。
「それ」の正体は
一目惚れ。
私は、この時から、
人生で一番好きな人に恋をする。
甘くて、苦しくて
しんどいのにやめられない
やめたくない
麻薬みたいな恋をする。
愛しさも
切なさも
心強さも
寂しさも
全部
この恋で知る。
死ぬほど好きな人に出会って、
忘れられない恋をした。
制服脱いで、背伸びする週末。
不夜城のごとく闇夜に佇むクラブは
格好の遊び場だった。
この日も
夜を泳ぐように音に揺られて、
明け方の境界線に漂って
いつもの夜を重ねるはず だった。
私は、帰り支度の波を横目に、
眠気と気怠さを持て余してた。
わざと大きくのけぞり、
バーカウンターに体を預けるマリは
「ねっむ〜。コンビニ寄って帰ろっか。」
騒ぎ疲れて電池切れみたい。
読モもたまにしているマリは,
可愛い&サバサバで
まさに、ギャル界の女神。
隣にいる私は、
まぁ⋯マリのバーター感否めないけど
努力と勢いで補う気合派ってとこかな 笑
正直、マリのこと羨ましく思う時もあって
凹んだりもするけど
頼もしい相棒であることに変わりはないから
私たちは、うまくやってる。
「あ、この曲すき」
ボォっと明かりがつき始めたフロア
流れるメロウなR&Bはアリシアキーズ。
お気に入りだった。
自然とメロディに乗せて
身体が音に溶けて揺れていく。
何気なく
ほんとに何気なく
フロアを見渡した。
酔って座り込む子 半分寝てる子
ワンナイトの相手を見つけて寄り添う子
まだ高揚してる子 談笑してる子
それぞれが夜を纏って楽しんで
それぞれが終宴を迎えていた。
そんなとき、突然
後ろから、ぶん殴られたように
「それ」は訪れた。
予告もなく
私の心臓を鷲掴みにして
身体は瞬きをするのが精一杯で
喉がひりついて
酸欠でパクパクした。
「どしたん?」
マリがきょとんとして
私を見ている。
そんな気配を
視界の隅っこで確認できたけど
そんなのにかまってられなかった。
だって
「それ」の正体は
一目ぼれ。
まじで。漫画や映画と一緒。
秒でズキュンって音がした。
薄明かりのダンスフロアの壁に寄りかかって、
腕組みしながら、
悪ふざけしてる鼻ピと銀髪のやり取りを
笑って見てる「それ」の姿に
私は音速でフォーカスしたまま動けずにいた。
目にかかる黒髪から覗いた伏し目がちの瞳
切れ長で少しつり目。
口の端っこで笑う薄い唇
長い手足が織りなす仕草一つ一つに
くぎ付けになった。
おもむろに、
黒い細身のパンツの後ろポケットから
煙草を取り出した。
隣のロン毛が、
自分の煙草に火をつけるついでに、
ライターを傾けた。
「それ」は空調の風をよけるように、
長い指で揺れる炎に手を添えた。
ライターの炎が「それ」の口元を照らす。
あ・・・。
スローモーションで捉えた
煙草を咥える口元が
綺麗で見惚れた。
息が詰まりそう。
でも1mmも視線外せない。
やっとやっとの瞬きをようやくした。
「せり?だいじょうぶ?」
マリがきょとんから
怪訝になってる。
そんな気配は、
相変わらず視界の隅っこだったけど。
「それ」は煙草を指に挟んだまま
髪をかき上げ、空に煙を吐いた。
空調は相変わらず効いていて、
向かい風となり
「それ」が吐き出した煙を押し戻す。
急に目を細めて眉間にしわが寄る。
あ、逆風で煙被ってる⋯。
無音映画を見ているようだった。
ぼそっとなにか呟いて、隣のロン毛が笑った。
つられて「それ」も笑った・・・・笑った。
クシャッと笑う目元
綺麗な歯並びがのぞく口元
笑って揺れる肩
一挙手一投足に目も心臓も持ってかれた。
まさにズキュン2発目。
胸のど真ん中で轟いた。
とにかく
なんかが
弾けた!!!!!
だって私は
マリを置き去りにして
「それ」めがけて、
一直線に向かって走り出してしまったのだから。
踊り疲れて、
ピンヒールで足が痛い。
でも、黒髪のロングヘアをなびかせて
今日イチの足さばきで進む。
夜の終わりは魔法が解けて、
がっつり囲んだ強めのアイラインだって
絶対ヨレてる。
完全にイケてない状態だったけど
そんなの気にしてる場合じゃなかった。
ってかそこまでに余裕も思考も至らなかった。
だって「それ」に
ズキュンと2連発で撃ち抜かれた私の頭の中
酸欠だったもん。
どうにもならなくて、
でも
どうにかしたくて
私の足は「それ」に向かって走った!
けど
2m手前で足がすくんだ。
うっ。怯むな私。頑張れ。
「ぁ、あのっ!!!!!!」
思ったより大きな声が出る。
「それ」含む鼻ピ・銀髪・ロン毛
⋯あと坊主と金髪と
夜なのにサングラスもいた。
派手な面々が一斉にこっちを見た。
視線つよっ。
やば・・・
今更我に返って完全ノープランに絶望。
膝が震える。
こんなとこに毛穴があった!?
ってとこから、汗が出る。
「なに?」
ロン毛が答えて一歩動く寸前。
いや、待って
アンタじゃないのっつ。
なんとか交わして
「ぉお友達になってください!!!!!!」
「それ」にまっすぐ足早に歩み寄って、
直角に腰を折り手を差し出した。
自分でもびっくり。
え⋯私、ダサ。
まさかの
”握手でお友達希望”
しちゃった⋯
一瞬の静寂のあと、
爆笑と拍手。
秒で恥ずかしさと後悔。
私何やってんだ。
背中にマリの視線も刺さってる。
「なんか言ってやれよ。」
ロン毛の笑いを堪える声が、
私を途方に暮れさせた。
空気が動いたその時、
差し出しっぱなしの私の右手に
温もりが宿った。
ハッとして我に返って見上げると、
指先をちょこんとつまんで「それ」が近くにいた。
「派手な逆ナンだなぁ。」
想像してたよりずっとずっと柔らかくて
低くて心地よい声と笑い方だった。
「それ」の正体は
一目惚れ。
私は、この時から、
人生で一番好きな人に恋をする。
甘くて、苦しくて
しんどいのにやめられない
やめたくない
麻薬みたいな恋をする。
愛しさも
切なさも
心強さも
寂しさも
全部
この恋で知る。
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