【改稿版】幼馴染との婚約を解消したら、憧れの作家先生の息子に溺愛されました。
 翌日、裕貴は本当にお見舞いについて来た。
 まだ一度もお見舞いしていなかったというから、ちょうど良かったのかもしれない。
 
「ご無沙汰しております、安浦先生。なかなかお見舞いに来れず、申し訳ありません」
「おお、裕貴君……いや、もう穂鷹社長か。何ヶ月ぶりだね。社長の仕事も大変だろう? 会長はお元気かね?」
「はい、父の指導を受けながら、なんとかやっています」

 裕貴は、スーツを着こなして背すじも伸ばして、家での態度からは想像できないほど、ちゃんとしている。
 
「ところで安浦先生、ご報告したいことがありまして」
「ほう、何かね?」
「実は、私、ここにいる真宮と結婚することになりまして」

 そう言うなり、裕貴は私の肩を当然のように抱き寄せ、にっこり笑った。
 胸の奥がズキンと痛む。……やっぱり、この場で言ってしまうのね。
 今まで穂鷹会長以外、社内の誰にも言っていなかったのに。
 
「おお、そうなのかね!?」
「今はまだ婚約という間柄ですが、結婚式の際には、ぜひ安浦先生にもご出席していただきたいと……」
「もちろんだよ! いやぁ、めでたいねぇ!」
「ありがとうございます」

 裕貴の声は弾んでいた。
 その横で、私は気の抜けたように「はぁ……」と返すのが精一杯だった。

 これで、本当にいいのだろうか。
 告白された時はすごく嬉しかったし、裕貴となら、って思ってた。
 でも、なんだか最近、自分がいいように扱われているだけのような気がしてきて。
 胸の奥に生まれたもやもやを押し隠し、安浦先生の手前、作り笑いを浮かべるのだった。
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