黒き噂の辣腕社長は強がり契約妻に生涯愛を絶やさない
「自宅で階段を踏み外したんだ。まだ検査中だが、おそらくあの様子だと足首を骨折してるんじゃないか」

「そんな……」

「とりあえず、病院へは俺が付き添っているから大丈夫。依都はしばらく忙しいって言っていただろ? 仕事が落ち着いたら顔を出してやれ」

 私たち姉妹は、子どもの頃に両親を事故で亡くしている。
 祖父母はまだまだ現役で働いているが、もう高齢者と言われる歳だ。彼らがケガをした孫の介助をするのは体力的にきついだろうし、旅館を放っておけない。ほかに頼れる親族は近くにおらず、大和の申し出はありがたかった。

「迷惑をかけちゃってごめんね。本当にありがとう」

「なに言ってんだ、依都。俺たちの仲で水臭いぞ」

 彼と私の実家は近く、家族ぐるみの関係が続いている。
 両親のいない私たちを、大和のお母さんはいつも気にかけてくれた。それもあって、三人はまるできょうだいのように育ってきた。

 二十六歳の私が年長で、大和は一歳下になる。子どもの頃は小柄だった彼は、由奈と一緒になって私について回るかわいい弟のようだった。それが今では、すっかり頼もしい存在になっている。

 大人になって、私たちはそれぞれの道へ進んだ。糸貫庵は由奈に託して、私は田舎を飛び出して呉服を扱う【絢音屋(あやねや)】に就職をした。今は都心にある本店の販売スタッフとして働いている。

「大和がいてくれて、よかった」

「俺に任せておけよ」

「うん」

 通話を終えると、沈黙に包まれる。

「はあ」

 よくないことは重なるものだと、実家を取り巻く状況に重いため息が漏れた。
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