癒やしの小児科医と秘密の契約
そんな莉々花ちゃんとのくだらない小競合いをしつつ、仕事だけは真面目にと勤務すること数日。

新人二人の採血実習が行われた。いつも自信満々で私に対抗意識を燃やしてくる莉々花ちゃんは、今日はやけに大人しい。

「あ、あの……私、採血苦手で」

「ああそうなの。私も最初は下手だったけど、何回もこなしていくと少しずつ慣れていくよ。てことで、やってみよう。はい、どーぞ」

自分の腕をでーんと差し出す。定期健康診断の採血を、実習として莉々花ちゃんと拓海くんにやってもらおうという戦法だ。

莉々花ちゃんは青白い顔をしながら、私の腕をムニムニ触る。血管を探しているのだろうけど、その手すら震えている気がする。

「大丈夫? ゆっくりでいいよ」

こんなに緊張している莉々花ちゃんを見るのは初めてで、なんだか親近感がわいてしまう。私も新人の頃は手が震えてしまったし、血管が取れなくて何度も刺し直しをした懐かしい思い出だ。

隣の拓海くんは早々に一本目が取れ、ふうと息を吐いている。頑張れ莉々花ちゃん、頑張れ頑張れ。心の中で全力応援。

何度か刺し直し、ようやく注射器の中に血液が溜まっていく。やればできるじゃないかと微笑ましく見ていたら、莉々花ちゃんがフラッと揺れた。

「あ、ちょっと、莉々花ちゃん?!」

倒れそうになった莉々花ちゃんに気づいて反射的に手を伸ばす。抱えきれずに、ガシャーンと派手な音を立てながら二人で床に倒れてしまった。

「ちょっと、大丈夫?!」

「川島さん、小谷さん?!」

「っ〜!」

騒ぎを聞きつけて、バタバタと看護師が集まってくる。ちょうど当直で出勤した通りすがりの部長先生も駆けつけてくれ、莉々花ちゃんを診てくれた。幸いすぐに意識が戻って、ほっと安堵する。どうやら採血が苦手なのではなくて、血を見るのが苦手で気分が悪くなってしまったらしい。
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