癒やしの小児科医と秘密の契約
「佐々木先生、心和ちゃん相当我慢してたと思いますよ?」

「うちの心和を泣かすとはいい度胸ですね」

「娘はやれん、ちゃぶ台返しじゃー」

「落ち着きなさい、杏子」

「いや、なんだかよくわからないけど、ごめんね。心配かけちゃったかな?」

俊介さんが女性陣に責められ困惑した声を出す。すごくモヤモヤしていたはずなのに何だかだんだん面白くなってきて、俊介さんの胸の中でふふっと吹き出した。

「ごめんねじゃないですよ」

「そりゃ部長先生が諸悪の根源ですけど」

「え? うん?」

俊介さんはますます困惑した声を出す。俊介さんの胸から顔を上げると、とてもバツの悪そうな顔をしていた。そんな表情もするんだなんて、珍しいものでも見るように凝視してしまう。ふと目が合うと、困ったように眉を下げて私の頭をぽんぽんと撫でた。

そんな私たちを見て、桜子さんと千里さんが大きなため息を吐く。

「佐々木先生、わかってないですよね? 車に莉々花ちゃん乗せましたよね?」

「乗せたけど……」

「他の女が乗った座席に座りたくないです」

「えっ、あっ、そうなんだ?」

俊介さんはじっとこちらを見る。私の気持ちとしては、そこまでではないのだけど、莉々花ちゃんに嫉妬していたのは事実。だからこそ、莉々花ちゃんを送った後にここに来てくれた俊介さんに感極まってしまった。くだらない嫉妬心と俊介さんの慈悲深さを天秤にかけられている気がする。

「えっと、心和。殺虫剤と消臭剤どっちがいいかな?」

「……そこはエタノールで殺菌かと」

「あ、私アルコール除菌シート持ってますよ~。佐々木先生にあげますね」

杏子さんはカバンから携帯用のアルコール除菌シート1パックを無理やり俊介さんに握らせた。まるで「飴ちゃんあげる」みたいな感じで。

「えっと……。じゃあ後で拭いておくね」

「真面目か」

「もー、佐々木先生面白すぎる~」

「どっちかっていうと杏子さんが面白いんじゃないですか?」

あははと明るい笑い声が店内に響く。つられて私も笑った。


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