癒やしの小児科医と秘密の契約
17.それは愛でしょ
焼肉モーちゃんへ戻ると、テーブルには人が増えていた。杏子さんの恋人で外科医の清島先生だ。清島先生は私を見ると、杏子さんたちに「川島さん来たよ」と教えている。

「あっ、心和ちゃん、おかえりー」

「佐々木先生を返してください、怪盗こし餡!」

「怪盗こし餡って誰?」

「もー、杏子さんでしょー」

「あはは、ごめんごめん。佐々木先生とどっちが早く来るかなーって思って」

「佐々木先生来るんですか?」

「誰も連絡先わからなかったから、清島先生を召喚して連絡してもらっちゃった」

「突然お邪魔してごめんね」

「あ、いえ、全然大丈夫です。佐々木先生のこと呼んでくださったんですね、ありがとうございます」

「いや、悪の大王がね」

「悪の大王……?」

よくわからなくて首を傾げると、杏子さんが悪い顔をしながら「ふはははは」と笑った。それを清島先生が優しい眼差しで見つめ、桜子さんと千里さんは大爆笑している。わかっていないのは私だけ。

「一体何のはなし――」

「姫は返してもらうからね、悪の大王!」

突如背後から声が聞こえたと思った瞬間、ぐっと引き寄せられる肩。何事かとそちらに首を傾ければ、そこには俊介さんがいて――。

「ちょ、ノリ良すぎでしょ」

「佐々木先生ってこんな人でしたっけ?」

「俊介は昔からこんなだよ」

「ギャー、勇者にやられたぁ〜」

「いつまで続けるの、杏子さん」

みんな好き勝手なことをしゃべってゲラゲラ笑っているけれど、私は笑えなかった。莉々花ちゃんを送って行った俊介さんが隣にいて、私の肩を抱いている。胸がいっぱいになってぽろっと涙がこぼれる。

「ふえっ……」

「えっ、心和、どうしたの?」

言葉にならなくて、俊介さんの胸に抱きつく。夢でもイマジナリー佐々木でもない、いつものほんのりいい香りがする本物の俊介さんだ。
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