癒やしの小児科医と秘密の契約
「もしかして……泣いていたんですか?」

「……どうしても、慣れないよね」

はあっと大きく息を吐きながら俯いた佐々木先生の肩は、小さく震えていた。

「……ナオくんのこと?」

「……治してあげたかった。ナオくん、一生懸命頑張っていたのに。治してあげるからねって約束したのに。……ああ、本当に無力だなぁ。自分にできること、もっとあったんじゃないかって、何度も考えるよ」

「先生……」

ナオくんが亡くなったとき、佐々木先生は泣かなかった。その後も、何事もないように仕事をしていつも通り笑顔を振りまいて。

だから私は先生の割り切った姿にショックを覚えていた。冷たいとさえ思っていて……。でも、そうじゃなかったんだ。本当は誰よりも悲しくてたまらなかったんだ。そんな感情を押し込めて、こうやって誰もいないところで一人で泣いて――。

知らなかった。
先生がこんな感情を持っているなんて、まったく知らなかった。
それが、とても悔しい。

「……無力なんかじゃないです」

「……」

「佐々木先生は、無力なんかじゃないっ」

私はこぶしを握りしめる。

無力なのは私だ。私はナオくんが亡くなったとき、悲しくて泣くことしかできなかった。今思えば、もっと心を込めてエンゼルケアをしてあげたらよかった。もっといっぱい話しかけてあげればよかった。ご家族にも、もっと気の利いた言葉をかけてあげられたかもしれないのに。

こうしたらよかったという後悔が、山のようにあふれてくる。

それに、佐々木先生の本当の気持ちに気づけずに、表面だけを見て勝手にショックを受けていたなんて、とんでもなく馬鹿だ。本当に、なんて馬鹿だったんだろう。私が好きになった人は、そんな表面的なもので表せないくらい、深い心の持ち主だったのに。

「心和?」

先生がふと顔を上げる。

「……泣いてる?」

「……先生こそ」

薄暗闇でよくわからない。でも、お互い頬が濡れている気がした。
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