癒やしの小児科医と秘密の契約
「ちょっとちょっと、ねるとん始まってない? 佐々木くん、どうするんだろうね?」

「ちょっと部長、聞こえるから」

ニヤニヤ楽しそうに笑う部長を、看護師長が咎めている。楽しんでいる場合じゃない、大ピンチなんですけど!

「待ってください。私、先生と付き合ってます」

声を大にして宣言すると、これまた小児科メンバーがざわつく。付き合っていることをあえて皆に伝えることはしないと佐々木先生と話し合ったけれど、この状況で隠すほど消極的ではない。むしろ、大好きな佐々木先生が危険にさらされているのだから、ちゃんと私のものだって宣言しておかなくては彼女としての威厳がなくなるってものだ。

だけど莉々花ちゃんはまったく動じず、可愛らしく首をコテッと傾げた。

「そうなんですか。でも私は先生と結婚するって決めてますし」

「け、結婚?!」

「はい、佐々木先生と大人になったら結婚しようねって、小学生のときに約束しましたので」

「は、はぁぁぁぁぁ?」

腹の底から不快な声が出た。佐々木先生と結婚の話なんてこれっぽっちもしたことがない。ちゃんと恋人になれたことで満足していたのに、莉々花ちゃんは私の先を行こうとしている。佐々木先生の恋人は私なのに、何だか取られた気分で腹が立つ。

「いやでも、小学生のときって……」

千里さんが渋い顔をするけれど、莉々花ちゃんはどこ吹く風だ。

「心和さん、気にしない方がいいですよ。おい小谷、調子に乗りすぎだ」

「そうだよ心和ちゃん。佐々木先生とお付き合いしてるんでしょう。莉々花ちゃんも、人の恋人取るような発言はやめたほうがいいよ」

「えっ、私は事実を言ったまでです。それにまだわからないじゃないですか。お二人は結婚してないんですから」

そんな自信満々に言われると、どんどん不安になってくる。私の佐々木先生のはずなのに、急に手からこぼれてしまうような、危うい感覚。不安に駆られるのは、きっと私が自分に自信がないから。莉々花ちゃんが堂々としているから。

「いやー、最近の子は積極的だなー。よし、とりあえず飲もう。ほらほら、座って。はい、乾杯!」

その場を取り繕うように、部長だけがガハハと笑った。
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