癒やしの小児科医と秘密の契約
13.大人じゃないので
クッションを抱きしめながらぼんやりソファに座っていたら、目の前のローテーブルにマグカップがコトリと置かれる。佐々木先生が入れてくれた甘めのカフェオレだ。バチッと目が合うと、佐々木先生はくすりと笑って眉を下げた。

「すごく不満顔」

「だって……」

あの歓迎会のあと私の心は大荒れで、気持ちを落ち着けるために滝行でもしたい気分だった。莉々花ちゃんが佐々木先生に付きまとっているのを見るたびに不安に駆られる。それを千里さんや拓海くんが大丈夫だと励ましてくれて、なんとかやり過ごしてきた数日。ようやくシフトが丸かぶりした佐々木先生をとっ捕まえて、仕事終わりなのに先生のマンションに押しかけた。

「歓迎会、大変だったんだって?」

「先生が取られちゃうと思って、皆の前で付き合ってるって言っちゃいました」

「別に構わないけど。部長にものすごくからかわれたくらいだな。あの人は他人事だと思って楽しんでたよ」

佐々木先生は私の隣に座ると、何でもないようにふわっと笑った。余裕がないのは私だけで、先生はいつも通り穏やかだ。

どうしてそんなに穏やかでいられるの?
どうしてもっと私だけを見てくれないの?

嫌な感情が頭をぐるぐると支配して、佐々木先生と二人っきりでいるというのに不安に駆られる。

「聞いてもいいですか?」

「どうぞ」

「先生は莉々花ちゃんと前から知り合いなんですか?」

とっても自分勝手な考えだけど、肯定されても否定されても嫌だ。知り合いだって言われたら何で教えてくれなかったのって責めそうだし、知り合いじゃないって言われても嘘つかないでって責めてしまいそう。

でも、先生は嘘をつかない。
そういう人だって、知ってる。

「知り合いだよ」

ほら、躊躇いもなく教えてくれた。
何だかもう、泣きそう。
クッションをぎゅうっと抱きしめて、顔を埋めた。

「実家が近くて母同士が仲が良かったんだよね。だからよく遊んだというか。年が離れてるから、妹みたいだったかなぁ。何というか、あの小さかった莉々花ちゃんが社会人かぁっていう、親心みたいな……って、心和? どうしたの? おーい、心和ちゃーん?」
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