シェアオフィスから、恋がはじまる〜冴えない私と馴染めない彼〜
1.予期せぬ出会い
 初対面の印象は最悪だった。
 それなのに、なぜか気になる人だった。

 都心にあるガラス張りの綺麗なビル。外から中を覗けば、カフェのようなお洒落な空間で打ち合わせをする人々。
 そんなキラキラしたシェアオフィスのコワーキングスペースで、私・工藤(くどう)咲希(さき)は一心不乱に仕事に励んでいた。

「う〜ん。ここは全体の色合いを変えて、何パターンか出そうかな」

 独り言を呟きながら、ノートPCの画面を見つめる。

 私の職業はフリーランスのグラフィックデザイナー。
 専門学校でデザインを学び、広告制作会社で三年ほど勤めた。
 しかし、あまりのブラック企業ぶりに嫌気が差し、仕事のあてもあったので思い切って独立。今は個人事業主として、細々と働いている。

 友達からは「フリーランスかぁ、すごいね! さすがはデキる女!」とか、「しっかり者の咲希なら大丈夫だよ!」とか言われる。
 でも、本当の私って、結構冴えない人間なんだよね……。
 と、PC画面のチャットツールがメッセージの受信を知らせた。

「あっ、理恵(りえ)さんだ……えっ、今から?」

 慌てて椅子から立ち上がる。
 メッセージには、『急で悪いけど、今からオンライン会議をしたい』という内容が書かれていたのだ。

「打ち合わせブース、空いてるかな?」

 ここのシェアオフィスの打ち合わせブースは予約制。ノートPCを抱えて慌てて向かうと、すでに満席だった。

「うわ〜、どうしよう」
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