光の向こうへ
ある朝、咲が学校に行く準備をしている最中に突然ふらついた。
 「咲?」
 呼びかけるより早く、彼女の身体は床に崩れ落ちていた。

 血の気を失った顔、荒い呼吸。
 俺は一瞬で医者の顔に戻り、脈をとりながら声を震わせた。
 「咲! しっかり!」

 病院に運ばれ、検査が始まる。
 同僚の医師が告げた言葉は冷たかった。
 「症状が進行しています。投薬だけではコントロールが難しい。入院治療に切り替えるべきです」

 胸の奥で何かが崩れる音がした。
 兄としての願いは、咲に「普通の日常」を与えること。
 けれど医者としての現実は、その日常を奪い去る方向へ突きつけてくる。
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