冷たい瞳の彼と、約束された未来

第七章 誤解と真実

 週末の夕方、私は商談帰りに偶然、都心の裁判所近くを歩いていた。
 通りの向こうに見えたのは――黒いコート姿の悠真。そして、その隣を歩く玲奈。
 二人はビルの影に入り、何やら真剣な表情で言葉を交わしている。
 玲奈がふと笑みを浮かべ、その肩にそっと手を置いた瞬間、胸の奥に冷たい痛みが走った。

 足が止まり、声をかけることもできないまま、その場を離れる。
 ――やっぱり、玲奈さんの言った通りなのかもしれない。
 私に向けられた優しさは、特別じゃなかったのかもしれない。

 

 その夜、気分を紛らわせようと従兄の真司に誘われ、行きつけのバーで軽く食事をしていた。
 「おまえ、顔色悪いぞ。何かあったのか?」
 「……別に」
 嘘をつくと、真司は何も言わずにグラスを満たしてくれた。

 店を出て歩き始めたとき、不意に背後から低い声が響く。
 「……彩花」
 振り向けば、街灯の下に悠真が立っていた。
 その瞳は、夜の闇よりも鋭く光っている。

 「こんな時間に、他の男と歩いて……」
 「真司は従兄だって、何度も言ってる」
 「だから何だ。血が繋がっていても、あんな顔で見られるのは嫌だ」

 「――っ、どうしてそんなに縛るの? あなたは玲奈さんとだって……」
 口にした瞬間、悠真の表情が変わった。
 「玲奈? ああ、あれは父上の案件で情報を共有していただけだ」
 「でも、肩に触れてた……」
 「俺は、あいつに触れられても何も感じない。感じるのは――」

 言葉がそこで途切れ、次の瞬間、強く腕を引かれた。
 距離が一気に縮まり、耳元に熱い息がかかる。
 「……お前だけだ。俺が他の男に渡したくないのは」

 心臓が跳ねる音が、夜の静けさに響いている気がした。
 でもまだ、完全に信じてしまうのが怖くて、私は何も答えられなかった。
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