桃ちゃんセンセと田宮くん

【碧side】2


 桃ちゃんセンセの情報は少し気にかけるだけで簡単に集まった。
 俺が知っていたのは帰国子女ということと、通っている大学名、学部くらいだったけれど、他の生徒は恐ろしい程情報を持っていた。
 ずっと外国にいたけれど、一度は日本の学校に通えという両親に促され、高2の秋に帰国してきたこと。帰国してすぐに俺が通っている塾の別校舎に入塾し、日本の大学入試に合わせた勉強を始めたこと。そして外資系の企業に就職を決めたこと。
「帰国子女だもんね。入試も就職も楽勝だったでしょ? 桃ちゃんセンセ。ズルいなぁ」
「まぁ、一部は本当で一部は違うかな」
 答える桃ちゃんセンセはあっさりしたものだ。俺が知っているだけでも何度か聞いたことのあるやりとりなのだ。高校卒業してからチューターをしている彼女は、4年近く同じことを言われているのだろう。表情も変えることもなく淡々と答える。
「人を羨んでも今更あなたが帰国子女になれるわけじゃないんだから。やりたいことがあるなら真面目にコツコツ勉強するのが近道だよ」
 諭すように言う彼女に、その生徒は食い下がる。
「でも英語は勉強しなくていいじゃん! ズルいなぁ」
 苦笑いを浮かべた彼女は、何を言っても無駄と分かりつつ、その代わりと呟いた。
「日本語はめっちゃ勉強したけどね」

 その時、俺は悟った。桃ちゃんセンセの英語を好き、と言った瞬間、眉間にシワを寄せた意味を。
 日本に帰ってきて英語が出来るのを散々羨ましがられ、そして散々揶揄されてきたのだと。
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