桃ちゃんセンセと田宮くん
【碧side】3
センター試験が終わった直後の塾は正直修羅場だ。国公立大学を目指している生徒はもちろんだが、私大でも今はセンター試験の成績で合否が決まる入試もあるのだ。センター試験の失敗は、俺たち受験生にとって進路が変わってしまうくらいの大きな出来事だ。
俺は国立大学の出願をどうするか悩みながら先に受ける予定の滑り止めの私立の勉強に勤しんでいた。
「妥協、っていうけど、どういう意味で? 大学の偏差値?」
休憩がてら質問コーナーの横にある飲食スペースでパンを齧りながら糖分補給していた俺の耳に飛び込んできたのは桃ちゃんセンセの言葉だった。
一応目隠しで区切られているが相手の生徒は誰か見なくてもわかる。よく桃ちゃんセンセに質問をしにいっていた国公立大学の看護学科志望の子である。
相手は泣いているのか、すすり声しか聞こえない。桃ちゃんセンセは静かだが凛とした声で話をしていた。
「私は志望校をアドバイスする立場にはないけれど、1つだけ言わせて。確かにbestじゃないかもしれない。けど、頑張って努力した上で結果的にbetterになってしまった。それはダメなことなのかな?」
一瞬、すすり泣きが止んだ。そして俺の手も止まる。桃ちゃんセンセは、特段励ましているようには聞こえない、それでいて真理を突いた言葉をその子に贈っていた。
「目標に到達する道は複数あるよ。今はそれが最短の道じゃないと思えるかもしれないけれど、動くのを止めなければそれがあなたのbestになる」
さぁ、泣き止んだら正社員の職員と志望校をどうするか相談しておいで、と声をかけた桃ちゃんセンセの言葉に、俺もまた腹を決めていた。
食べていたパンをお茶で流し込むと、受付で自分の担任を呼び出して決意が変わらない内に国立大学は第二志望のところにする、と告げたのだった。