桃ちゃんセンセと田宮くん
【碧side】4
研究室に用があり、大学に立ち寄ったのは本当にたまたまだった。
午後から有休を取っていた俺は、スーツ姿のまま学内を歩いていた。やけにリクルートスーツ姿の学生が多いことから、今日は就活イベントが開催されているのはすぐに予想できた。
人混みを避けるように学生が寄り付いていない共有スペースに差し掛かった俺は、その場に貼り付いたように足を止めた。
忘れていたはずなのに、一瞬で記憶が蘇った。
低くて掠れ気味の、なぜかgoodの時にだけことさらハスキーになる特徴的な声。
声の主を見つけた俺は引き寄せられるようにその人物に近づいた。
誰かしらと電話をしていた彼女の通話が終わったタイミングで俺がしたことは、いきなり頭に触れるという大変失礼な行為であった。
だけどその時はそんなことを考えるすらなく、彼女の一刻も早く顔を見たかったのだ。
「桃ちゃんセンセ?」
驚き、弾かれたように顔を上げた彼女は、やっぱり桃ちゃんセンセだった。
「やっぱり桃ちゃんセンセだ」
驚いていた顔が見知っている顔を見つけたように緩んで、それでも意外そうな表情を見せながら。
「え? 田宮……くん?」
耳を打つ声に、俺は一瞬で過去に戻る。あの頃、桃ちゃんセンセに恋をしていた自分に。
「よかった。覚えてくれていて」
ホッとして漏れた声は、間違いなく俺の本音だった。
戸惑う桃ちゃんセンセと無理やり約束をして、連絡先を交換して。
それしかしていないのに、俺の胸はビックリするくらい高鳴っていた。