冷徹御曹司は誤解を愛に変えるまで離さない

第五章 嫉妬の爆発

 週明けの昼下がり、オフィスで仕事をしていると、同僚の柏木さんが声をかけてきた。
 営業部のエースで、誰に対しても明るく気さくな人だ。

「橘さん、今週末空いてます? ちょっと相談があって……食事でもどうかと思って」

「相談、ですか?」

「はい。新しい企画の件なんですけど、橘さんの意見を聞きたくて。もちろん仕事抜きでも歓迎ですけどね」

 冗談めかして笑う柏木さん。
 私は深く考えず、「予定を確認しておきます」とだけ答えた。
 ──その会話を、見られていなければ。



 その日の夕方。
 エントランスから出ようとした瞬間、待ち構えていた颯真の姿に足が止まった。

「……何してるの?」

「迎えだ」

 有無を言わせない低い声。
 車に乗ると同時に、颯真は切り出した。

「柏木と食事に行くそうだな」

「え……どこでそれを?」

「見ていた」

 背筋がぞくりとする。
 まさか、あの短い会話を……?

「仕事の相談だって言ってたわ。それに、まだ行くとも決めてない」

「行く必要はない」

「どうして?」

「俺の婚約者だからだ」

 またそれ。
 胸の奥で苛立ちと虚しさが混ざる。
 婚約者だから──それだけ。
 好きだから、じゃない。

「……あなたにとって私は、ただの“肩書き”なんでしょう?」

「違う」

「じゃあ何なの?」

 問い詰めると、彼は一瞬だけ口をつぐんだ。
 それから、低く押し殺した声で言う。

「……他の男と笑うな。気が狂いそうになる」

 息が止まった。
 けれど、その言葉の熱さを信じきれない自分がいる。
 ──これは嫉妬じゃなくて、ただの独占欲。
 私という“婚約者”を奪われたくないだけ。

「……束縛が強すぎるわ。私は私の自由で動く」

 そう言い切ると、颯真の瞳がわずかに揺れた。
 けれど彼は何も言わず、車内には重い沈黙だけが残った。



 その夜、スマホに柏木さんからメッセージが届く。
 《週末の件、やっぱり仕事じゃなくて、橘さんとゆっくり話がしたいんです》
 ──そんなこと、颯真が知ったら……。

 嫌な予感が背中を這い上がってきた。
 そして、次の週末、予感は的中することになる。
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