野いちご源氏物語 三六 横笛(よこぶえ)
衛門(えもん)(かみ)様がはかなくお亡くなりになったことを残念に思う方は多い。
もともと源氏(げんじ)(きみ)は、多少の特技や長所がある人の死はもれなく悲しまれるお人柄(ひとがら)でいらっしゃる。
まして衛門の督様は特別に目をかけてかわいがっておられた方だから、苦々しい思いはあるものの、たびたび悲しく思い出していらっしゃる。
無邪気でかわいらしい若君(わかぎみ)をご覧になると、いっそう気の毒にお思いになるの。
一周忌(いっしゅうき)のご法要(ほうよう)にお(きょう)の手配をなさる。
若君の代わりにというおつもりで特別な寄付(きふ)もなさった。
(ちち)大臣(だいじん)は何もご存じないから、源氏の君から亡きご子息(しそく)へのご厚意(こうい)だと思って、ただ感謝なさっている。

大将(たいしょう)様も丁寧にご法要をなさる。
未亡人(みぼうじん)になられた(おんな)()(みや)様のところにも、衛門の督様のご遺言(ゆいごん)どおり、ご機嫌(きげん)(うかが)いに行かれている。
衛門の督様の弟君(おとうとぎみ)たちよりも深く()(づか)っておられるほどなので、父大臣と母君(ははぎみ)はありがたくお思いになる。
<息子は世間から大切にされていたのだ>
と思い知らされることが多くて、早すぎる死を()しんでは思い()がれつづけておられる。
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