あなたは私のオランジェットの片割れ
元々、このマンションは、劇団に所属している役者たちが、ネット配信用の動画を取ったり、仮眠をとるために劇団名義で借りている部屋らしい。2LDKで、杏が今いるダイニングキッチンとそれに繋がってリビング。そしてそれ以外に、二部屋ある。ここなら、誰にも知られずレッスンが出来るようだった。
「――では、早速始めていただきたいのですが。葛原さんに言われた材料は用意してあります」
事前に、何を作るか、材料は何が必要か聞かれていた。桐生は棚から小麦粉や他の材料を取り出し、シンクへ置いた。冷蔵が必要なものは、棚の横にある冷蔵庫の中だと言った。
でも……肝心の東雲蒼士がいない。
「あの、東雲さんは……」
杏の言葉に桐生はハッとし、慌てて部屋を出てゆく。そして、次に戻った時には男性をひとり連れていた。
上下スウェット姿で、ボサボサな黒髪に大きな黒縁メガネ。眠そうに欠伸をしていて、誰が見ても、今起きました、という感じだった。これって――
「ほら、しゃんとしなさい、蒼士!」
桐生がたしなめるように隣の男性を肘で小突くと、「よろしくお願いします……」と小声で言って頭を下げた。
(よろしくお願いしますって、もしかして……もしかしなくても、この人が東雲蒼士?!)
CM撮影の時には確かにあった、キラキラした王子様みたいな俳優オーラが全く無い。
杏が唖然としていると、桐生がコホンと小さく咳払いして言った。
「葛原さん、お見苦しくて申し訳ありません。昨日の仕事が終わるのが遅く、こちらに泊まったものですから……」
俳優の仕事って大変なんだな、なんて、芸能人オーラが全く消えてしまった蒼士を見ながら、杏は少し同情した。
「――では、早速始めていただきたいのですが。葛原さんに言われた材料は用意してあります」
事前に、何を作るか、材料は何が必要か聞かれていた。桐生は棚から小麦粉や他の材料を取り出し、シンクへ置いた。冷蔵が必要なものは、棚の横にある冷蔵庫の中だと言った。
でも……肝心の東雲蒼士がいない。
「あの、東雲さんは……」
杏の言葉に桐生はハッとし、慌てて部屋を出てゆく。そして、次に戻った時には男性をひとり連れていた。
上下スウェット姿で、ボサボサな黒髪に大きな黒縁メガネ。眠そうに欠伸をしていて、誰が見ても、今起きました、という感じだった。これって――
「ほら、しゃんとしなさい、蒼士!」
桐生がたしなめるように隣の男性を肘で小突くと、「よろしくお願いします……」と小声で言って頭を下げた。
(よろしくお願いしますって、もしかして……もしかしなくても、この人が東雲蒼士?!)
CM撮影の時には確かにあった、キラキラした王子様みたいな俳優オーラが全く無い。
杏が唖然としていると、桐生がコホンと小さく咳払いして言った。
「葛原さん、お見苦しくて申し訳ありません。昨日の仕事が終わるのが遅く、こちらに泊まったものですから……」
俳優の仕事って大変なんだな、なんて、芸能人オーラが全く消えてしまった蒼士を見ながら、杏は少し同情した。