あなたは私のオランジェットの片割れ
「な、なに……?」
「いや……くずあん、明日、会社休みだろ? なんか予定ある?」
元々、お菓子レッスンの為に直近の土曜日は空けていた。だから「別にない」と答えると、斗馬はなにか企んだようにニヤっと笑った。
「じゃあさ、朝、迎えに行くから出掛ける準備しといて」
「何処へ行くの?」
「いいところ」
斗馬はそれ以上は教えてくれなかった。
次の日の朝、約束通り、斗馬はアパートまで迎えに来てくれた。二人で電車に乗り、しばらくして一度乗り換え、またしばらく乗った。そうして着いたのは、一度も来た事のない知らない駅。「ここから少し歩くから」斗馬はそう言って、杏の前を進んだ。
今日は、青々とした空が眩しいほどの快晴。日傘を忘れた事を少し後悔。もくもくとした入道雲に、どこかで鳴いているセミの声。夏真っ盛り、という感じだ。歩いてまだ少ししか経っていないのに、額にじわりと汗が滲んだ。
駅前の商店街を抜け、住宅街を進む。何処へ向かっているんだろう? そう思っていると、唐突に斗馬は足を止めた。
建物が無くなり、急に開けた景色。そこは河原の土手だった。湿気を含んだ風が吹き、緑の草の匂い、ザーザーという流れの音。河原なんて久しぶりに来た。でも、どうしてここに?
不思議に思っていると、斗馬は土手を下りて行く。杏もその後に続いた。ヒールの低い靴を履いてて良かった。川のすぐそばでやっと、斗馬は止まった。
「ここ、何かあるの?」
杏がそう聞くと、斗馬は無言で対岸を指さした。
「えっ?!」
思わず声が出た。だってそこに見えたのは――東雲蒼士。
「蒼士先輩、今日はここで、ファンクラブで出す来年のカレンダーの写真撮影するって聞いてたから」