『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
琳華はこれから自分は本当に皇子の為に後宮で暗躍をしなければならないのだと身をもって知る。見た目はおしとやかな貴族の娘を装いながらも裏では後宮、皇子に向けられる黒い影を探る。
「そう言えば父上は宗駿皇子様に仕えている親衛隊長様にも話が通してある、と仰っていたのだけど」
「外の感じだと女官様や宮女の方々ばかりで会えそうにないような気がしますが……まさしく、女人の園」
「わたくしも同意見よ。見回りの兵はあくまでも兄上が勤めているような部署の方々で許可された人数も多くはない。皇子様の警護を専門にされている方とそう易々と会えるとは」
うーんと悩む琳華と梢。
とりあえず紙の帯は誰にも見せられないので覚えたら燃やすなりして処分をしなくてはならない。
「父上も今は事務職の官僚とは言え元は武官。親衛隊長様とも何かしらのご縁があるのかもしれないわね」
紙の帯を卓に置いた琳華が今夜にでも早速、散策ついでに印のついている場所に赴いてみようかと梢と話を始めた時だった。
部屋の扉がとんとん、と軽やかに叩かれる。
咄嗟に梢が腰を上げ、出入り口の方に向かうと「どちら様でしょうか」と問いかけた。宿舎楼に逗留する秀女たちを世話する後宮の宮女ならば先に名乗る筈だ。
「周琳華様のお部屋でお間違えないでしょうか」
次いで出て来た言葉は「伯家の侍女に御座います」との言葉。
扉の前にはすぐに部屋の中が見えてしまわないように一枚の衝立があり、梢はその横から顔を覗かせて琳華に扉を開けても良いか視線で問いかける。そして浅く頷いた主人を確認すると部屋の扉を開けた。
「お休み中のところ申し訳ございません。私、伯家の侍女で御座います」
平身低頭のその侍女は改めて身分を名乗ると部屋の奥に琳華がいることを確認しているようで梢はそれを隠すように扉の前に立ちはだかる。一介の使用人として不躾な、と心の中で憤慨しつつも用件は何かと問いただす。
「各自、居室にてお夕食かと存じますがその後に秀女の皆様でお話しがしたい、と主人が申しておりまして琳華様も是非に」
急な伺いは梢の可愛い顔をきつくさせる。
「申し訳ありませんがそう言ったお誘いは……いえ、少々お待ちください。伺ってきます」
扉の前から踵を返し、梢は琳華の元へ行くと状況を説明する。
「伯家……伯丹辰様ね。父上からの情報提供によるとうちより格下だった気がするけれど」
「お嬢様、どうしましょう」
梢の視線は卓の上にある案内図と機密とも言える警備時刻が記されている紙の帯に向けられる。
「断れそうだったら断って貰っていいかしら。なんかこう、儚い感じで」
「承知いたしました。この梢にお任せ下さいませ」
強く頷く梢は「追い返してきます」とまた扉の方へ向かった。