『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
その日の夜、他の秀女たちは昼間に日差しを浴びて外を歩き回ったせいか全員が部屋に引っ込んだままであった。
「他の秀女の方々はくたばりあそばしているようだけれど」
「左様で御座いますね。昨夜は伯家の丹辰様も張り切られていたご様子でしたが」
夕食に出て来た鶏の出汁か効いた汁物は朝と同様にしっかりと熱かった。
外を回って体を動かした琳華の身によく染みるような薄味ながら、しっかりと風味が付けられている。
別皿に添えられている鶏の身の方もふっくらと柔らかで、周家に通いで料理を作りに来てくれている年配の使用人の女性といつも一緒に調理をしていた梢もその温かい料理と質に驚いていた。むしろ自分が先に毒見として箸を入れ、せっかくの温かい料理が冷めてしまうことを残念がるくらい。
そんな梢は今朝の早い時間、周琳華の侍女として大きな炊事場の隣にある簡素な調理室の釜から湯を貰い、朝の茶の支度などをしながら下女たちから根掘り葉掘りと琳華の食の好みなどを聞かれていた。
しかし主人の身の安全を図ることが出来る梢は当たり障りのない「琳華様には苦手な物はありません」と平たい情報だけを伝えている。もちろん、寝起きの琳華にも下女たちから聞かれたこととその返事の内容は伝えていたがたった二日にして秀女たちへの値踏みや格付けに偏りが出てきているように梢は感じていた。
この格付けは先手必勝だ。
このまま琳華には秀女の中で宗駿皇子からの興味や寵愛を一番に受ける存在として君臨して貰いたい。周家の教えを胸に刻んでいる梢は当初、最年長である琳華に対して年増だのなんだのと言っていた同年代の下女たちの手の平返しを綺麗さっぱり、聞かなかったことにした。琳華には正直に伝えたが。
何事にも正直であれ。
それもまた周家の教えだったので梢の耳は琳華の耳である。目もまた同じ。
「わたくしも少し体を休めた方が良いのかもしれないわね」
「夜風は体を冷やすと言われていますが……少し窓を開けましょうか」
「ええ、お願い」
あと椅子を、と琳華は自分で椅子を窓辺に運んでしまうが二人にとってはいつものことなので梢も何も気にしない。しかし梢はすぐに膝に掛ける為の少し厚手の膝掛けを座った主人の膝に置く。