『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
「分かった。あまり深入りはしないように」
「皆して急ごしらえでわたくしを後宮に入れたくせに……って、ああもう、またわたくしは」
つい、言ってしまった。
しかもちょっと鼻で笑われた気がする。
「身の危険があると私や私の私兵が判断した場合は速やかに屋敷に帰す。これはご息女を後宮に引き込む際に周先生と交わした約束だ。私の最優先はあくまでも宗駿様の身の安全」
「そう……ですか、そうですよね」
「我々は皇帝陛下から正式に間者の捜索について命令を受けている。先に懸念を挙げたのは兵部にいる周先生方ではあったが……ご息女?」
「あの……」
偉明はやはり『密勅』なのだと言っている。
それは皇帝自らが下した命令。つまりその間に息子である宗駿皇子は関与していない。
「宗駿皇子様はこのことについて何もご存じ無いのですか?」
「ああ」
「それって、いえ……」
ぐっと言葉を飲み込んだ琳華の細い喉。
「私たちが宗駿様を騙していると考えたのだろう?」
「はい……」
「その行いはあまりにも不敬だ、とも」
返事をしなくなった琳華に偉明もそれ以上は言わなかった。そして軽く雰囲気を切るように息をついた彼は「危ない真似だけはするな」と言って何事も無かったかのように行ってしまった。
そんな偉明はその場に侍女の梢がいても話を続けてくれた。
琳華が一番に信頼を置いている者として……それに『良き侍女』だとも褒めてくれた。そう言った他人を多少なりとも思いやる気概がある者が、きっと偉明自身が一番の信頼、最上級に敬服をしている皇子を騙しているなど。
(一歩間違えれば宗駿皇子様からの信頼が破たんしてしまうことをされている。偉明様も、父上も)
膝の上に手を置いていた琳華は梢が掛けてくれた膝掛けを胸元に寄せ、抱き締める。
いくら皇子にとって良い行い、正しいことをしていたとしても……偉明の断言によって疑問を抱いていた琳華の胸に今度は罪悪感が生まれてしまう。
酷く揺れそうになる心を整える為に琳華は瞼を閉じて深く、夜風を吸い込んだ。また明日も今日と同じように慣れない場所で慣れないことをする。だから、心だけは乱れないように――。