『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』


 「何か状況に変化はあったか」
 「……家に帰る事となった方がずっと泣いていて」
 「所詮はその程度だったのだろうな」

 そんなこと、はっきりと言わずとも琳華とて分かる。
 なんとしてでも正室、かなわなくても側室になるために皆が秀女選抜を通って来たのだ。家柄はそこまで考慮されない公平性もあった。しかしながら高い教養が求められるともなればやはり貴族の娘たちの方が合格率は高い。

 「秀女としての重責に圧し潰されそうになっていた所で不必要だと言われ、家に帰されるのは」
 「それが現実だ」

 だから、そんな冷たい言い方をしなくたって。
 琳華はまた袖の中でぎゅっと握りこぶしを作りながら、気取られないように深呼吸をする。自分が今ここで怒ってもどうにもならない。また彼に鼻で笑われるのが関の山。

 「秀女になれる人材だ。読み書きが出来る、見目も良いと噂も流れるだろうし嫁入りに困るようなことはないだろう」

 彼は、全てこの世の無情な事実を述べているに過ぎない。

 「悔しいか」
 「え……」
 「ご息女はそうやって誰かのために(いか)れるのだな」

 さくさくと青い草が生えていた小川のほとりから二人は石畳の道に移る。

 「私にも、宗駿様にも怒りの自由がない。私はただ、宗駿様の命を守るためにあるだけ……それ以外の一切を捨てて尽くして来た。宗駿様はいずれ名君となるお心をお持ちの方だが」

 立ち止まった偉明が仰ぎ見た先にあったのは東宮。
 宗駿皇子が住まう立派な宮殿であり、偉明が詰めている場所。

 「まあ、ご息女には分からんだろうな」

 少しだけ緩んでいた琳華の袖の中の強い気持ちがまた偉明の言葉によってぎゅっとなる。しかしそれは悔しさや怒りではなく、彼が自分に吐露をした気持ちへの切なさによるものだった。
 きっと偉明は、その気持ちを誰にも言うことができない。琳華には梢がいる。梢もまた琳華に話せる部分は話をしてくれる。
 それならば偉明は……今日は一緒ではない雁風とは良き上司と部下のように見えるが、人付き合いはそれぞれだ。

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