『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
「ご息女、武力を揃えるには?」
「現ナマが必要です」
「ならばその資金をどうやって稼ぐ」
偉明の言葉に琳華の表情が険しくなる。
(禁制品の取り引き額は正規品の比じゃない。危険は伴うけれどそれ以上に利益があるのならば)
武力を持つにはそれなりにお金が掛かる。
手っ取り早くその資金を集めるためには正当派なことをしていたら途方もない時間が掛かってしまう。
「一個人が必要以上に武力を持たぬよう皇帝陛下はその大きなカネの流れを監視する為に表向きは緊縮として制限をかけ、国境の兵も増やした」
「そうなると賄賂とか色々と以前よりも商売にお金が必要になっている、と言うことでしょうか」
「そうだ。そして武力や武器を皇帝陛下に黙って秘密裏に揃えるなどもはや朝廷の敵として表現しても構わないだろう。その先に何が“起きる”か、あるいは“起こせる”と思う?」
「な……それで、その娘たる丹辰様を秀女として後宮に入れたのですか」
琳華が考え及ぶ範囲ですら相当、危険な状況。
下手をすれば偉明たち親衛隊すら、伯家の息が掛かった者に侵食されかねない。娘が側室だろうが正式に入宮してしまえば後はどうとでもなる部分が多い。皇子の寵姫にさえなればその地位は約束され、男児を産めば正妻たる皇后を差し置いて次期皇帝の生母となる。たとえ生まれたのが姫だろうが王族直系である公主の母の地位は高い。
朝廷としては他の大陸の国との交流を悪とはしていない。しかし内政状況は今、皇子の正室選びや世代交代の時期に差し掛かっており、不安定な状況に陥りやすい。まだ若い宗駿皇子を取り込み、傀儡にしようなど。
(それを考えると父上はとても危険なことをされているけれど……これは一応、王朝の歴史を守る為なのよね)
不安になる心も確かにあるのに、なんだかコトが大きすぎて逆に吹っ切れてしまった琳華は素の自分を見せるように菓子の膳にあった饅頭を掴むと大きく頬張る。今でこそ梢の前でもしなくなったがたまにはこうして発散した方が心身の為にもなるのだ。
(丹辰様のお家柄がそうであって、ご本人の様子とも辻褄が合うのは分かったけれど)
もぐもぐと饅頭を食べる琳華は劉愛霖の姿を思い浮かべる。
可愛らしい子で、最初の内は慣れない場所での緊張と疲労で体調がよくないようだったがそれ以外これと言って目立つような心配事は伺えない。
愛霖との関係も良好だし、座学の際はいつも隣同士だった。
「次に劉愛霖についてなのだが……ああ、もう時間か」
ふ、と顔をあげた偉明が部屋の隅に置かれていた燭台の火を見る。ごく細い火が風もないのに揺れ出している、と言うことはそろそろ燃え尽きる。
「ご息女、くれぐれも無茶な真似はしないように」
「はい……それは心得ています」
どうだか、と言っているような視線をくれた偉明に対してついに目くじらを立てた琳華だったが彼はそれをさらりと受け流して「侍女を呼ぶ。菓子は持って帰ると良い」とまだ残っていたお菓子を持ち帰るよう促してくれた。