『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』
その後、夜を迎える頃には簡易の寝台と布団。そして食事の膳が運ばれて来た。
湯気の一切立っていない冷めた膳、冷たく硬い寝具。毒見として先に食事を口にしてくれる梢のいないひとりぼっちの簡素な部屋。
外では遠く、賑やかな声が聞こえ始める。
今夜、そして明日の夜。後宮内では夜市が開かれるのだ。
だから連行される間際に丹辰に「お心の強い丹辰様だからこそお伝えを」と今夜から楽しい夜市が開催されることを伝えた。それは秀女たちにはまだその時は周知されていない偉明からの事前情報。
琳華も梢とお菓子の調達に出向こうと思っていた。
あと、運が良ければ兄たちのどちらかなり、父親にも会えたかもしれない。もとより、その夜市に秀女全員が参加できるように担当女官に掛け合うつもりでもあった。琳華もその役割を丹辰が担ってくれるに違いない、と連行される間際に「宜しくおねがいしますね」と丹辰が上と掛け合ってくれるように伝えていた。
(愛霖様も、きっとどこかに収容され……)
琳華の心に引っ掛かる一人の女性の姿。
最初から名が挙げられていた二つの家。伯家の野心は分かる。歴史上、何度もそう言うことは起きているのだ。それで政が揺らぐこともあったし、そうならずに穏便に済んだ場合もある。
琳華にはどうしても劉愛霖の背後が見えないのだ。
言い方の善し悪しはこの際置いておくとして、気弱そうな彼女に皇子をどうこうする獰猛な魂胆などあるのだろうか。
とにもかくにも、夕飯の膳を平らげた琳華は椅子に座ったままじっと考える。でも、なんだか手持ち無沙汰で……用意されていた綿入りの枕を持ってきて、腕に抱く。
(もし、愛霖様がお父上やご親族の方からとても強いご指示を受けていたとしたら……でもそれって、わたくしと同じね)
父親から言われなければ、父親が自分の娘が最適と考えなければこの事態は起こらなかった。だからもし、愛霖も誰かに厳しく強要されていたら。やはりそこに本人の意思はなく、周囲が外戚を狙っていたのだろうか。
枕をぎゅっと抱き締め、琳華は少しだけうずくまる。
「これはこれは……囚われの姫が」
人の気配はあったが、反応が遅れた。
「っ、え……い、めい様」
「人払いは済んでいる。私の兵……いや、宗駿様の兵が番をしているからな。宮正には外で休憩をさせている」
音も無く開けられた扉と共に偉明が何もない部屋にやって来た。
咄嗟に琳華はまた強く枕を抱き締めてしまったのだがそれを目の前で見てしまった偉明の方が軽く動揺する。
「侍女は無事だ。別室で待機となっている」
「そ……う、ですか。聞いてはいましたが、良かった……小梢は強い子だけれど……こんなこと、彼女もきっと初めて、で……」
偉明の涼やかな目元は琳華の手元を見ていたが侍女の確かな無事を聞いて緩める腕に彼女の思いやりの心を見る。