『その秀女、道を極まれり ~冷徹な親衛隊長様なんてこうして、こうよっ!!~』


 我が儘に育った貴族の子女ならばまず先にこの処遇への文句の一つでも言うだろうに、琳華はそれをせずに侍女の安否を知るや否や強張っていた表情や張りつめて上がっていた肩を下ろしてしまう。

 「ご息女、単刀直入に言おう。事態が急転した」
 「ええ、はい……わたくしがこうなってしまったからにはきっと、と思っていました」
 「運が悪かったな」
 「そのお言葉だけで片付けてよい事態ではないと思うのですが」
 「確かに、周先生が見れば卒倒してしまうだろう。いくら自由奔放なご息女でも布団部屋よりも酷い場所に置かれているなど……しかしこれは私の指示でもある」

 どすん、と偉明は勝手に卓のそば、琳華のすぐ隣にあった寝台に座りながら「ここは東宮に近い。だから私の目が行き届く」と言う。

 「だが、この事態を起こしたのは伯家だ」
 「丹辰様の……?」
 「ああ。まあ政と言う物は色々複雑でな……たとえばそうだな、周先生の書物を読んでいると聞いているがご息女、基礎的な兵法は分かるな?」
 「はい……参考程度ですが」
 「申し分ない。初等訓練兵よりもマシだ」

 兵法について予備知識がある女性など大変珍しいが偉明は軽く頷いて話を進める。

 「伯家に対し、確かに疑いは掛けられていた。あの父親にあの娘、ご息女も見ただろう?後宮での立ち居振る舞いが物を言うことを伯丹辰はよく分かっている。だが反面、何か下手を打てばすぐさま自らに疑いの目が向けられるのも承知していた筈だ」
 「言うならば大胆不敵な振る舞い……?」
 「そうなるな。伯家は商売人として利益への追及が単純に強い。それは悪いことではない」
 「はい。商売とはそう言うことをして大きくなるとも」
 「それで、だ。言いそびれていた劉家についてなのだが」

 琳華の腕の中でひどく潰れている枕を見ていた偉明の視線が上がり、彼女の瞳を捉える。

 「劉愛霖、彼女は養女だ」
 「では劉家の血を引いていないのですか」
 「いや、ご側室とも言えんような……いわゆる“外で作って来た娘”だ。噂の範疇でしかないが妓楼で産まれた子、とも」
 「ですがそれについてはそこまで極端に珍しいことでは」
 「ご息女は本当に肝が岩のように硬いな」
 「これでも世間について多少は」

 箱入り娘と言えども、と少し唇の先を尖らせる琳華は枕を抱え直して偉明を見る。結婚が出来る年齢となり、こんなにも間近で親兄弟以外の男性と話をするのは偉明が初めてだったが嫌な感じはせず……今はむしろ、心強かった。
 それにもう、偉明は何も隠さずに話をしてくれている。

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