夢の中だけでも
第一章
確かにわたしは恋をしていました。
しかし、それは彼に対してではなく彼が好きな私に対しての恋心でした。
あの日夢を見ていたんです。
うるさい上司のがなり声。
やけに鼻につくコーヒーの匂い。私はこの職場が大嫌いだ。
ここには去年入社した。
就活が遅れた私にとって、残された会社がここぐらいしかなかったからだ。
ー「青空新聞社」 青空とは名ばかりで会社自体はどす黒い曇り空。
部長からのパワハラはしょっちゅうで残業地獄。休日でも呼び出されて取材。
はやく誰か労働局に訴えないかなといつも思う。
私はそんな気持ちを込めてパソコンのEnterキーを勢いよく押した。やっと編集が終わったのだ。
「部長、特集記事の編集終わりました。」
「ああ印刷しといて。」
コピー機に向かおうとすると部長が呼び止めた。
「待って、お前って鈴村?だっけ?」
お前、鈴村、呼び捨てに嫌気がさしながらも顔をしかめて答える。
「そうですけど。」
「お前、今日からクビ。」
「え」
一斉にパソコンを打っていた社員が手を止め、こちらを向く。
言葉が頭に入ってこなかった。クビ?
「おい、聞こえてる?クビだよクービ」
「ああ、はい」
「悪いけど荷物まとめて出てって。
これ、退職金な。」
「ありがとう、ございます。」
___いくら嫌だと思っていた職場も辞めるとなると辛くなった。転職だって簡単じゃないし、意外とこの職場良かったのかなって今更思う。
そのとき、スマホが光った。
通知を見ると高校のときの友達のゆかのインスタの投稿の通知だった。
そこには夜景をバックにシャンパンを乾杯している2人の姿があり、今日は彼氏と記念日ディナーと書かれていた。
なんだか涙が出てきた。
周りはもう大人になっているのに1人だけ子供のままの現実を突きつけられたような気がした。
これまでは仕事が忙しいから恋愛はしないって自分に言い聞かせて生きてきたけど、本当は仕事も恋愛も出来なかったのかもしれない。
心の奥に言葉じゃ表せない怒りと悲しみと、あといろいろがごちゃまぜになってとにかく泣いた。
そして、震える手でスマホを取って
「辛い現実 逃げる方法」
と調べた。
こんなこと調べてもどうにもなんないことは自分が1番よくわかってる。
でも調べないとだめな気がしたから。
涙で滲んだ視界で検索結果を眺める。
__「辛い人生から輝かしい人生へ!〜タロット占い〜」
__「辛い現実を受け入れられない貴方へ!!メンタリストDr.池田 無料カウンセリング!」
そんなWebサイトをスクロールしていく。
私が今求めているのは明るい未来でも共感でもなかっ
た。
「…あった。」
私はスクロールする手を止めた。
__「成功率100%初恋の相手の夢を見れる方法」
私が求めていたのは愛情だった。