夢の中だけでも

第二章

「しょっっぱ!!!」

初恋の人の夢を見る方法は意外と簡単だった。

まず、塩水を飲み込む。
次に、「夢」と3回唱えて眠るだけ。

あんまり信じられないけどでも試してみる価値はあるはず。
私は数年前のことを思い出した。


そのとき私は中学生で十分に青春を謳歌できる年だった。

「ねえ!昨日蓮くんに話しかけられちゃったー!」
「え、やばくね!?」
「え!蓮くんの話?なになに?」

クラスの女子は恋愛で頭がいっぱいだったけど、特にその中で蓮という男の子が話題に出た。
蓮君はスポーツ万能で頭が良いのに顔までも整っていた。
私も少し気になっていたけどどうせ私がと思ってばかりだった。

「おっはー!真由!」
「おはよ」

私には由美という親友がいた。
由美はモデルになれそうなほどかわいくて蓮君に選ばれるのは由美だろうなと考えていた。

「ねね、今日委員会決め!なににすんのー」

「まじか!えーなににしよ」

「えもちろんうちは蓮君が手挙げた委員会狙い!!」

「由美はいつも蓮君ばっかだな笑笑」

「とか言っちゃって!ほんとは蓮君のこと好きでしょ?」

どきっとした。
べつに好きなわけじゃないし、気になってるだけだし。
ふと周りを見渡すと蓮君がこっちを見ているような気がした。
私を試すようににこっと笑った顔で。
なんて答えようか迷っているとチャイムが鳴った。

「はーい!席ついて!今から待ちに待った委員会決めするから!一つの委員会ごとに定員二名までな」

「じゃあ美化委員」

私は手を挙げた。
理由は楽そうで人気もなさそうだから。
由美とかほかの女子は蓮君が入る部活いくんだろうし。

「はい、鈴村な」

「次、…」

にしても、ずっと頭の中であのときの蓮くんの顔がぐるぐる回ってた。
それとあのときの由美の質問も。
別に好きじゃないからこうやって蓮君とちがう委員会選んでるんだし。

「次、図書委員」

まず蓮君が手を挙げて、それに続きクラスの女子が一斉に手を挙げた。

「じゃあ、じゃんけん!」

「先生、俺美化委員に行ってもいいですか。」

え、思考が停止した。
なんで美化委員に?なんで私と?
クラスの女子もぎょっとした顔をして、黒板に書かれた私の名前を見るなり、こちらを睨んできた。

「ああ、譲ってくれるのか。ありがとう。」

蓮君は普通に自分の席に戻った。

でも私、気づいてた。
蓮君がこっちを見て笑ってるのを。
私が蓮君を目で追いかけているのを。
そして、私が蓮君を好きなことを。


「いいなー!!!ずるいよー!!!!」

由美が地団駄を踏みながら話しかけてくる。

「ごめんって!だって蓮君が来るとか分かんないじゃん!」

「でもー…」

結構めんどくさいことになった。
とりあえず、由美は良いけど他の女子がうるさい。
陰口とか叩かれるんだろうなー。
でも、なんで蓮君が私を選んでくれたのか分からない。
由美みたいにかわいくないし、勉強も運動もできない。

とりあえずあそこに行こう。
私は考え事をすると屋上によく行く。
一人になれるしひろーい空を見てると自分の悩み事がちっぽけに感じるから。


屋上のドアを開ける。
1人だけの静かな空間、なはずなのに。

「え、なんで?」

「鈴村さんよくここにいるから今日もかなーって思って」

「あ、はい」

「いきなり同じ委員会になっちゃって困ったよね笑
ごめん」

「ぜんぜん、大丈夫ですけど」

「あのさ、実は俺、鈴村さんのこと好き」

「え」

何を言っているか分からない。
なんでいきなり?
この人頭狂ってるんじゃないか。

「あやっぱ、さっきのこと忘れて!ごめん!俺帰る!」

屋上のドアを開く音が聞こえる。
このままじゃだめ。
私、言わないと。

「私も、好きですよ。」

「え」

お互い同時に振り向く。

「私、蓮くんのことが好きです。」

やばい何言ってるんだろ私。
話したこともないのに。
振られるに決まってる。

「うれしい!同じ気持ちだったんだ?」

え、本当に私のことが好きなの?
顔が一気に赤くなる。

「は、い」

「俺、入学してから気づいてたよ。
鈴村さんの優しいとこ。
周り見てちゃんと気使ってて。
だいぶ遅くなったけどこの気持ち伝えたくて。」

優しい?私が?そんなはずない。
そんなこと誰からも言われたことないし自分に良いところなんて一つもないはずなのに。

「あの、じゃあ委員会も?」

「そう。
最初に違う委員会選んでから鈴村さんと同じ委員会なろうって思って。
成功して良かった笑」

無邪気に笑うその姿に心ときめいた。

「じゃあ今日から、よろしくお願いします?」

「よろしくね。」

でもなんだか帰る時は気まずくなってお互い無言で帰った。


そこから卒業まで、遊びに行ったり通話したりカップルらしいことをした。
幸せだった。
自分って優しいんじゃないかって思った。


でも、そんな楽しい時間もすぐ終わり、違う大学に進むときに蓮君から別れを切り出された。
「ごめん」って泣きながら何度も謝られて。
辛かったけど別れた。
理由を聞いたら「別の彼女ができた」って言われた。

ああ、そういう運命なんだなって思った。
優しいっていう言葉もお世辞に過ぎなかったし私は無価値なんだと思った。


そこからは恋愛というものに一切触れずに生きてきて今に至る。
でも、ばかげているけど、蓮君がいたら必ず立ち直れると思った。
だからもう一度夢の中で会いたいと思った。
どういう形で夢の中で会えるのかは分からないし、
本当に会えるのかも分からないけど、
あわよくばもう一度の復縁を心の奥底で期待していた。

「夢、夢、夢」

私は目を閉じた。
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