桜吹雪が舞う夜に
大学一年、冬

約束 Sakura Side.



ーー冷たい木枯らしが吹いて木々を揺らす。
冬は、もうそこに迫っていた。

なんとなく、理緒のことをふと思い出した。
きっと、彼女と別れた冬が近いせいだろう。

病室の匂い、ベッドに座って笑った顔。
「桜はきっといいお医者さんになるよ」って、何気なく言われた一言。
あの時の声の温度まで、今でも思い出せる。

……大学に入ってからは、自然とその頻度は減っていた。
毎日の課題や講義、サークルやバイトに追われて、気づけば眠ってしまう日々。
忙しさに紛れて、記憶が薄れていくことに、少し安心して、少し寂しくも思っていた。

だけど、ふとした瞬間に蘇る。
季節の匂いとか、何気ない言葉とか。
まるで「忘れないで」と背中を叩かれているみたいに。

……理緒。
あなたに胸を張れる自分でいたいって、今でもどこかで願っている。

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