桜吹雪が舞う夜に
酒井先輩が味噌汁を口に運ぶのを見届けながら、私は小さく息を吸った。
胸の奥に浮かんでくる感情を、勇気を出して言葉にする。
「……先輩」
「ん?」と顔を上げた酒井先輩の前で、私は箸をぎゅっと握りしめた。
「その……私も、参加してみたいです。勉強会」
言い終えた瞬間、鼓動が大きく跳ねた。
ーー無謀かもしれない。まだ1年生の私なんかが行っていい場じゃないのかもしれない。
けれど、それでも。
彼がそこでどう話すのかを、見てみたいと思った。
医師としての御崎日向を。患者さんと向き合うときとは違う、教える人としての顔を。
酒井先輩は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それから少しだけ笑った。
「……まぁ、見学くらいなら。あの先生もきっと断らないと思うよ」
「ほんとですか……?」
思わず身を乗り出した自分に、先輩は苦笑いを浮かべて頷いた。
「ただし、途中で圧倒されても泣くなよ。あの場は“学生”も“医者”も関係ないから」
胸の奥がじんと熱くなる。
(……泣かない。絶対に。あの人の姿を、この目でちゃんと見届けたい)
私は静かに頷き、再びスプーンを手に取った。