桜吹雪が舞う夜に

ライブハウス Hinata side.

それから、1週間経った頃。
週末、時間が取れた俺は、約束通り桜をインディーズバンドのライブに誘った。

音楽はまだまだ拙いと思うけれど、歌詞や世界観に惹かれるものがあったバンドだった。

彼女と夜、下北沢の駅で待ち合わせて、地下一階にあるライブハウスのドアを開ける。
集客は、まばらだったけれど、皆開演を楽しみに待っている様子だった。

ライブハウスのドリンクカウンターで、俺はレッドアイとジンジャーエールを頼んだ。
照明を落とした狭い空間、バーカウンターの奥に並ぶ酒瓶のラベルが赤や青のライトに照らされ、ほんのりと滲んでいる。

「レッドアイって……?名前、かっこいいですね」
桜が興味深そうにグラスを見つめてくる。

「トマトジュースとビール混ぜたカクテル」

「美味しいんですか?」

「酒、飲めるようになったら試してみれば良い」
口にする瞬間、無意識に「あと1年か」と数えてしまう。彼女がまだ10代だという事実が、俺にとっては境界線でありブレーキでもあった。

「……後1年かかります」
唇を尖らせる仕草が、なんとも子供っぽくて可笑しい。

「何でそれにしたんですか?」

「好きだから」
一言で答えると、彼女はふっと目を細めて笑った。

「……日向さんの好きなお酒なら、でもいつか絶対に飲みたいな」

そう呟くように言いながら。

グラスを受け取り、周囲を見渡す。
スモークが薄く漂うステージには、もうセッティングを終えたバンドが音合わせをしている。
低いベースの音が床を伝って響き、胸にじんじんと響いてきた。

「ーー行こう。普通にリズムに乗って揺られてるだけでも、楽しいから」
彼女の背を軽く押す。

照明が落ち、スポットがステージを照らす瞬間、桜の目がぱっと輝くのを見て、胸の奥が熱くなる。
この子に、もっと色んな音や景色を見せたい。
でも同時に、それが「俺だから」という理由になってほしいと、強欲な願いも芽生えていた。





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