牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)
夜道を歩きながら、桜が小さくあくびをした。
「……すみません。眠いわけじゃないんです。ただ、音の余韻で頭がぼんやりして」

「初めてだとそうだよな。耳鳴りも少し残るだろ」
そう言いながら、日向は彼女の歩調に合わせて速度を緩めた。

ふいに、並んだ手が触れ合う。
一瞬驚いて引こうとしたのに、そのまま離せなくなる。

街灯に照らされた夜道、互いの影が重なり合い、沈黙が長く続いた。
桜は前を向いたまま、わずかに頬を赤くしている。
その横顔を見て、胸の奥が熱を帯びる。

ーーあぁ。
このまま時間が止まればいいのに。

言葉にしたら壊れてしまいそうで、声に出せなかった。
ただ寄り添うように並んで歩き、夜の静けさに二人の鼓動だけが溶けていった。
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