桜吹雪が舞う夜に

金曜日の夜、新宿西口。
仕事を終えたばかりの人々でごった返す雑踏の中、時計を確認すると、約束の時間より少し早かった。
駅の出口近くに立ち、自然と人波の中に彼女の姿を探してしまう。

ーーあ。

制服ではなく、大学生らしい落ち着いた私服姿の桜が、少し緊張した面持ちで歩いてくるのが見えた。
彼女の方もこちらに気づいたらしく、ぱっと表情が明るくなる。

「お待たせしました!」

「いや、俺も今来たところだ」
そう答えながら、自然と歩調を合わせる。

「……すごいですね、人の多さ。夜の新宿ってあまり来たことなくて……」
見上げて言う桜の声に、肩のあたりが小さく震えているのがわかった。
慣れない場所への不安と、これから新しい環境に入る緊張。

「大丈夫。今日は顔合わせだけだし、俺が一緒にいるから安心しろ」
そう言って微笑むと、桜は小さく頷き、ぎこちなくも嬉しそうに微笑み返した。

その笑顔を見ただけで、不思議と胸の奥が満たされていく。

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