桜吹雪が舞う夜に
秘密 Sakura Side.
冬に入ってから、私は日向さんの家に足を運ぶことが増えた。
特別なきっかけがあったわけではない。ただ――一緒にいたい、その気持ちを抑えなくなったのだ。
最初の頃は、こんな頻度で押しかけて迷惑ではないかとビクビクしていた。
けれど、彼はそんな素振りを一切見せず、いつも私を見ると穏やかに笑ってくれる。
その笑顔に触れるたび、胸の奥から安心が広がっていった。
そんなある日。
日向さんの家のリビングのテーブルの上に置かれた本を片付けようとしたとき、
ふと、しおり代わりのように挟まっていた紙片が目に留まった。
コンビニのレシート――ではない。
花屋のレシートだった。
「白百合 花束」
その下に印字された金額を見て、思わず息をのむ。
……一万円近い。
日付としては、ごく最近。
ただのプレゼントや飾りにしては、あまりに高い。
私は手が震えるのを抑えながら、視線を落とした。
あの日、日向さんからほのかに香ってきた花の匂い。
――やっぱり気のせいじゃなかった。
でも、どうして私には言ってくれなかったんだろう。
誰に、どんな想いで、白百合を?
日向さんの優しさも、笑顔も、すべて私に向いているはずなのに。
その「はず」が揺らぎ、不安が音を立てて募っていく。
(……まさか、誰か他の人のために?)
心臓が早鐘を打ち、胸の奥に冷たいものが広がった。