桜吹雪が舞う夜に
朔弥さんにはそう言ってもらえたものの、
結局、私の中で疑心暗鬼が止まることはなく。
ある日の夕食の後。
食器を片付けながら、堪えていたものがつい口をついて出た。
「……ねえ、日向さん」
「ん?」
ソファで論文をめくっていた日向さんが顔を上げる。
「この前……どこに行ってたんですか? なんか、花の匂いしてましたよね」
できるだけ軽い調子を装ったが、声は少し上ずっていた。
自分でも隠しきれていないのがわかる。
日向さんは一瞬だけ目を細め、肩をすくめた。
「……人に会ってきただけだ」
「ふぅん……そうなんですか」
私は何でもないように笑ってみせる。
そこで会話が終わるはずだった。
けれど日向さんは、私の奥底にある気持ちを見透かしたように、軽い調子で言葉を続けた。
「……気になるのか?」
「っ……!」
手が一瞬止まる。慌てて皿を洗う水音だけが響いた。
日向さんはそんな私の姿を見つめ、ふっと息を吐く。
「……いや。いい」
声の調子が変わる。からかう響きは消え、低く真剣な色を帯びていた。
「そんな風に疑われるくらいなら、正直に話す」
心臓が大きく跳ねる。
けれどその続きが何なのか――言葉を飲み込むように、日向さんは黙り込んだ。