桜吹雪が舞う夜に


玄関のドアが静かに閉まると、外の雪の音が一気に遠ざかる。
部屋の中には私と日向さん、二人だけ。
その静けさに、鼓動が余計に大きく響いているように感じた。

コートを脱ごうとした瞬間、不意に腕を引かれた。
驚いて顔を上げると、日向さんの瞳がまっすぐに私を捉えていた。

「……ごめん」
低く押し殺した声。
次の瞬間、強く抱きしめられていた。

頬に胸を押し付けられて、鼓動が伝わってくる。
こんなにも早く、不安げに鳴っているなんて。

「二週間……死ぬほど長かった」
耳元で囁かれて、目頭が熱くなる。

「……私もです」
震える声で返すと、彼の腕の力がさらに強まった。

雪の夜を越えてようやく辿り着いた温もりに、私は全身を委ねていた。


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