牧師の息子のエリート医師は、歳下医学生に理性が効かないほど夢中です。(旧題:桜吹雪が舞う夜に)
泣き疲れたように沈黙していた日向さんが、不意に低い声を落とした。
「……もう一個、聞きたいことあるんじゃないのか」
胸の奥が跳ねる。
「……母さんのことだよな」
震えながらも頷いた私に、彼は目を伏せ、小さく息を吐いた。
「正直もうだいぶ前だから……悲しいとかはあんまり無い。ただ、後悔だけが残ってる」
静かな声が、心に沁みる。
「高校生の時だ。あの人は、俺の音楽高校の学費を工面するために、昼も夜も働いて……過労で倒れて、ある日突然、帰ってこなくなった」
胸が締めつけられて言葉が出ない。
彼は遠い目をしたまま続けた。
「……俺はそれ以来ずっと、『守る』ってことに執着してる気がする。
これ以上、大事な存在が居なくなることに……きっと絶対に耐えられないから」
短く笑ったその表情は、どこまでも苦しそうだった。
「『守る』なんて、綺麗な言葉で包んでるだけで……結局は、俺自身のエゴなんだ」
その言葉に、涙がまた頬を伝う。
私は強く首を振った。
「……そんな風に思わないでください」
けれど、彼の影を落とした瞳は揺れたままだった。