桜吹雪が舞う夜に
会議室を出た廊下。
誰もいなくなったのを確かめてから、静かに声を落とした。
「……何で、そこまで俺を庇うんですか」
向坂先生は立ち止まり、振り返る。
相変わらず柔らかな笑みを浮かべながら、軽く肩を竦めた。
「理由なんて単純だよ。
君を切ったって、僕に何の得もない。
むしろ優秀な駒をみすみす捨てる方が愚かだろう?」
「……駒、ですか」
「うん。駒」
にこやかに頷く。
「ただし――君は愚直で、裏切らない駒だ。
だから安心して動かせる。
僕にとってはそれで十分な価値がある」
その声に返す言葉を失い、拳を握りしめた。
感謝と屈辱と、複雑な感情がないまぜになって胸に広がる。
操り人形になんてなりたくなかったはずなのに、結局そうなってしまっている自分にひどく苛立つ。