桜吹雪が舞う夜に


会議室の空気が張り詰めたまま、沈黙が続いた。
誰も答えられない。

その時、向坂教授が静かに手を上げた。
「……まぁまぁ」

柔らかい笑みを浮かべながら、場を見回す。

「御崎の言い分はもっともだよね。規定上、交際そのものを禁じる項目は存在しない。
 ただ、“職務倫理”という曖昧な言葉に、外部から口を挟まれる余地がある。そこが問題になっている」

視線をこちらに向ける。
「でも彼は、これまでの仕事ぶりから見ても誠実で、成績評価に私情を挟むような人間じゃない。僕が保証する」

ざわつく空気を抑えるように、穏やかに続ける。
「だから、ここで無理に講義担当を外すよりも――むしろ残す方が妥当だと思う。僕が責任を持つ。
 それで、よろしいですよね?」

教授陣の間に微妙な視線が交錯する。
向坂は笑みを崩さないまま、その場をまとめ上げていった。

俺は黙ってその様子を見つめながら、拳を解いた。
ーー庇われた形なのに、どうしてか胸の奥にざらつきが残った。


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