桜吹雪が舞う夜に


「本当はね、僕、君に留学させたいんだよ」

さらりと口にされて、胸の奥がわずかにざわつく。
返す言葉を探す前に、教授は続けた。

「でも……そんなことしたら、一生分以上に恨まれる気がする。
 仕事以外で口も聞いてもらえなさそうだから、諦めるよ」

軽く笑いながら言うその声音に、冗談とも本音ともつかない響きが混じっていた。

「……」
言葉が出ない。
確かに桜を置いて海外へ行くことになったら、自分はきっと耐えられない。

教授の笑みを前に、ただ小さく息を吐くしかなかった。


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