桜吹雪が舞う夜に
刻印の意味 Sakura Side.
年が明け、街はいっそう寒さを増していた。
あの夜――日向さんが初めて私の前で涙を見せた日以来、変わったなと思うことがある。
……前よりずっと、無邪気に甘えてくるようになったのだ。
ある夜、心底疲れた様子で彼が帰ってきた。時刻はすでに深夜を回っていた。
ソファに沈み込んだまま、額を手で覆って動かない。
私はそっと隣に腰を下ろし、小さく声を掛けた。
「……大丈夫ですか」
けれど、返事はすぐには返ってこなかった。
沈黙ののち、かすれた声がようやく漏れる。
「……もう無理」
思わず息を呑む。
普段なら「大丈夫」としか言わない人の口から出る言葉とは思えなかった。
「……セックスして」
「え……」
彼は顔を上げられないまま、唇だけを動かす。
「元気出させて……頼む」
普段なら絶対に言わない直球。
その必死さに胸がざわめき、次の瞬間、切なさが込み上げた。
「……日向さん」
震える声で彼の名前を呼び、そっと手を握る。
「そんなふうに甘えるの、初めてですね」
彼は情けなく笑った。
「……君にしか言えないよ」
私はしばらく彼を見つめ、やがて恥ずかしそうに目を伏せながら頷いた。
「……わかりました」
その一言に、彼の肩から力が抜けていくのが分かった。