桜吹雪が舞う夜に
夜鷹 Sakura Side.
大学が春休みに入り、バイトを少し頻度を増やしていた頃。
「そういや桜ちゃん、来年から3年だろ? また忙しくなる?」
片付けを終えた店内で、朔弥さんが何気なく声をかけてきた。
「……あ、はい。たぶん」
私は思わずグラスを拭く手を止める。
「シフト、どうする? 無理のない範囲で組み替えてもいいけど」
「まだ……大丈夫だと思います。今のところは」
そう答えながらも、胸の奥に少しだけ不安が灯る。
サークルの仕事を通して、色々と要領よく動けるようにはなってきたものの、体力はある方じゃないしまだまだ自分のキャパなんて分からない。
それでも、やれるだけやってみたいと思っている。
「ーー4年生になると少し……しんどいかもしれないですね」
「ふーん。やっぱそうか」
朔弥さんは煙草を手に取り火を付ける。
「まぁ、心配すんな。お前、頑張りすぎるとすぐ顔に出るタイプだしな。どうせ日向が真っ先に気づくだろ」
からかうような声音に、私は苦笑いで返した。
だけどその言葉の奥にある、さりげない気遣いが心に残った。