桜吹雪が舞う夜に
夜。静かな部屋に寄り添って、まだ消えない余韻に包まれていた。
ふいに、自分でもどうしてそんな言葉が口をついたのか分からないことが漏れ出た。
「……日向さんにとって、その、セックスってどういう行為なんですか」
唐突すぎたのだろう。日向さんはわずかに目を見開き、短く息を吐くと、天井を仰いだ。
「……そうだな」
しばしの沈黙。考えるように言葉を探し、やがて低い声で。
「俺にとっては……確認、かな」
「確認……?」思わず問い返す。
「君がここにいてくれること。俺を選んでくれてること。……それを確かめたくなる」
その声は、いつになく弱々しくて。
「だからって自分本位にしたいわけじゃない。むしろ……君が心から受け入れてくれるのを感じられると、それだけで救われる」
胸の奥がきゅっと熱を帯びる。
「……そんなふうに思ってたんですね」
気づけば微笑んでいた。
日向さんは気恥ずかしそうに顔を背ける。
「……あんまり人に言うことじゃないな」
けれど私は首を振った。
「聞けてよかったです。……私にとっても、大事な確認ですから」
右手の薬指にお互い嵌められた指輪に目を落とす。小さな刻印が視界に浮かぶ。
――I’m here / With you.
あの時も、同じように「確認」みたいな言葉を選んでくれていた。
必死に何にしようか考える私の横で、迷いを見せず、『これがいいな』と誓うような目を向けてくれたことを思い出す。
一人じゃない。ここにいる。そう約束するように。
(……やっぱり、日向さんらしい)
胸の奥がじんわりと温かくなる。
私は指輪を撫でながら、そっと彼の手を握り返した。