桜吹雪が舞う夜に
桜の下の約束 Sakura Side.
三月の終わり。
約束通り、日向さんと桜を見に行った。
「遠出」とは言ったものの、結局私の希望で近場の代々木公園になった。
「……二年前、日向さん。私が医学部に受かった時、餞別だって言って連れてきてくれたでしょう」
私の脳裏には、二年前の、まだ隣にいるこの人とは関係性を表す単語が存在しなかった時期の光景が浮かんでいた。
「……あったな。付き合う前だ」
私は頷き、花びらの舞う枝を見上げる。
「……嬉しかったなって、思い出したんです」
「理緒の話とか、大学のこと……色々話したよな」
「はい」
思わず笑みがこぼれる。
「……あの時には、もう決めてました。春に入学したら、ちゃんと告白して。振られて終わろうって」
日向さんは一瞬だけ驚いたように目を細め、それから柔らかく笑った。