桜吹雪が舞う夜に
「……朔弥さん」
意を決して、私は彼を見上げた。
「色々ありがとうございます。朔弥さんが居なかったら、私、日向さんとのこと……抱えすぎて、誰にも相談なんてできなかったと思います。
……もしかしたら、抱えきれずに、日向さんとは別れていたかもしれない」
一瞬、朔弥さんは驚いたように目を瞬かせた。
それから、ふっと口元を緩める。
「……おいおい、そんな真面目に礼なんて言うなよ。照れるだろ」
わざと軽く笑い飛ばすように言いながら、煙草の箱を指先でトントンと叩いた。
「でも、ま、そう言ってもらえるのは悪くないな。……お前があいつとちゃんと続いてるなら、それが一番だ」
私は胸がじんと熱くなるのを感じた。
(……本当に、朔弥さんがいてくれてよかった)
「朔弥さんみたいなお兄ちゃんが欲しかったです」
そう冗談混じりに言うと、彼は一瞬目を丸くしてから吹き出した。
「ははは。残念。俺もう妹はうるさいのが2人いて、新規募集してません」
わざとらしく肩をすくめる姿に、思わず笑ってしまう。
その笑いに紛れるようにして、胸の奥で小さくつぶやいた。
――それでも。こうして話を聞いてくれるのは、やっぱりありがたい。